糖尿病治療は「カロリー制限」から「糖質制限」へ
現在、日本には約1400万人の糖尿病患者およびその予備軍がいるといわれています。日本人の1割が糖尿病という時代に入っているわけですが、その治療法の中心となるのが食事療法です。でも、糖尿病の治療食といえば、カロリー控えめで量が少なく、肉も魚もあまり入っておらず油っけも少ない、寂しい食事というイメージがあるのではないでしょうか。しかも、こうした糖尿病食を実行するには、食品交換表を見ながらカロリー計算をしなければならない煩わしさがあり、毎日、食事を準備するご家族にも負担を強いることになるわけです。
もっと食べたい、肉や魚を食べたい、そんな気持ちを抑えきれなくなる、あるいは、カロリー計算が面倒くさいなどの理由から、糖尿病食を続けられないという人は多いでしょう。食生活というのは嗜好に大きく左右されるものですから、いくら病気だからといっても、急に今までの食事内容を大きく変えようとしてもままならないのは無理ありません。特に、通常の糖尿病の治療では飲酒を禁じられますが、これは酒好きにとってはほとんど苦痛といってよく、我慢しきれずにこっそりと飲んでしまう人も珍しくないようです。
また糖尿病の場合は、よほど重症でない限り、食事療法のガイドラインを破ったからといって、即座に自覚できるような体の不調が起こるわけではありませんから、なおのこと我慢が難しいものです。このように従来の糖尿病食には我慢がつきものでした。食べたい物も飲みたい物も我慢しなければ、将来、大変な病気になってしまう。今までの糖尿病患者さんたちは、医者にそういわれて、泣く泣く糖尿病食を続けてきたわけです。
ところが、現在、糖尿病食の考え方は変わろうとしています。事実、欧米では、糖尿病についての治療方針が大きく変わりつつあり、従来の食事療法だけが有効なわけではなく、いくつかのやり方から選択できるという認識になっているのです。私が糖尿病の患者さんたちにお勧めしている「糖質制限食」は、まさにそのような欧米の潮流に沿った食事療法です。
この糖質制限食ですと肉や魚も好きなだけ食べることができ、アルコールも蒸留酒ならOKです。面倒なカロリー計算も要りません。このため「ラクに長続きでき、すぐに効果が出る」のが大きな特徴になっています。
現在のところ日本で糖質制限食を実施しているのは、私が勤めている高雄病院と、私たちの考え方に賛同してくださっている医療機関だけです。しかし、既に高雄病院だけでも900人を超える患者さんがこれを実行しており、非常に大きな効果を上げています。高雄病院では1999年から糖質制限食を実施してきましたが、きちんとこれを続けている患者さんは全員改善しています。
現在は医療も、自分に合った治療法を選ぶ“テーラーメイドの時代”といわれています。私の最新刊『糖質制限食 冬のレシピ』で「糖質制限食」について知っていただき、皆様の選択肢の一つに加えていただければ幸いです。
財団法人高雄病院理事長 江部康二
1章 糖尿病改善へと導く 糖質制限食の基本を知る 2章 季節の味と行事食を堪能する 糖質制限食・冬の献立レシピ 3章 米国糖尿病食事療法の変遷と糖質制限食への期待 4章 お正月の食事を楽しむために 彩り豊かな糖質制限食おせち料理 5章 果物を味わうために 各糖質の性質と正しい摂取方法 6章 食品糖質量~食品に含まれる糖質量を知ろう~