編集者コメント
糖尿病は、この40年間で、約3万人から約700万人にまで急増しています。境界型糖尿病(糖尿病予備群)を含めると2000万人に及ぶともいわれています。初期の糖尿病は、健康診断では見つからないことが多く、知らない間に重症になっていることも珍しいことではありません。いったん糖尿病だと診断されると、医師から、カロリー制限を指導されるのですが、血糖値コントロールがうまくいかないことが多いようです。
本書の著者・宮本輝氏もそうした一人でした。作家という座業のせいもあり糖尿病となったのですが、カロリー制限を続けていても病状は安定せず、糖尿病との苦しい闘いを強いられていました。そんななかで宮本氏は、肉や酒もOKで、糖質(炭水化物)を制限するだけという簡単な食事療法「糖質制限食」と出会います。そして、従来の常識をくつがえす考え方に驚きながらも実践すると、短期間でめざましい回復を果たしました。今ではゴルフ練習場で300以上くらい平気で打つなど、体力・気力とも充実し、健康な毎日を送っています。
そうした過程で宮本氏は、カロリー制限など従来の健康常識の誤りに気づかされ、糖尿病以外のさまざまな現代病の治療・予防についても新たな可能性を見いだすようになりました。こうした経緯を中心に、「現代人の糖質の摂りすぎ」「がん、アルツハイマーなどを防ぐ食事」「心の問題と食」「医療制度の問題点」「人の身体にふさわしい食」……などについて、糖質制限食の提唱者・江部康二医師と対談し警鐘を鳴らしています。
著者コメント
私(宮本輝)が江部康二医師と対談することになったのは、糖質制限食が、糖尿病だけにとどまらず、人体へのもっと重要な意味を含め持っているのではないかという勘のようなものが、次第にある確信へと高まっていったからだ。しかし、作家の勘に何の科学的価値があろう。最新の医療現場で、日々患者さんたちに接している江部康二医師に、科学的、医学的、理論的に、人間と糖質について、そのお考えをお聞きしてみたい。そういう思いから、この対談は実現し、それは一冊の書物として刊行されることになった。(本書「はじめに」より)
1947年兵庫県生まれ。
追手門学院大学文学部卒業。
広告代理店勤務などを経て、77年「泥の河」で太宰治賞を受賞。78年「螢川」で芥川賞を受賞。芥川賞選考委員。『道頓堀川』『錦繍』『青が散る』『流転の海』『優駿』(吉川英治文学賞)など多くの作品がある。近著に『骸骨ビルの庭』(上下、講談社)。
江部康二
えべ こうじ
1950年京都府生まれ。
京都大学医学部卒業。
2000年、財団法人高雄病院理事長に就任。自身の糖尿病が発覚したこともあり「糖質制限食」の研究に取り組む。その後、高雄病院での1200人を超える症例などから、その画期的な効果を証明。05年、『主食を抜けば糖尿病は良くなる!』(東洋経済新報社)を刊行し、糖質制限食を一般に紹介。