心臓に障害をもつ中学生からのメッセージ
著者の山田倫太郎くんがこの本を著したのは中学2年生の時でした。「フォンタン術症候群」という先天性の障害があり、心臓の左心室と右心室が分かれていないという難病で、彼は赤ちゃんの頃から大きな手術を繰り返し、生死の狭間をさまよってきました。しかも心臓移植手術の対象ではないため根本治療は難しく、通院しながら対症療法を続ける以外に方法はありませんでした。
「お兄ちゃんの病気を治すお医者さんになりたい」と言った、当時4歳の弟に向けて、倫太郎くんが一気に書き上げたのが本書です。
◆書き方はとても平易、しかし内容は深い
中学2年生の文章ですから、やさしく平明な文体です。誰でも短時間で読めてしまいます。けれども、つらい治療や苦しい経験を繰り返してきたからこそ生まれた言葉が並びます。また倫太郎くんの周囲に対する思いやり、温かさ、そして彼の明るい性格も伝わり、笑いながらも深く考えることができる著作です。
◆みんなで読みたい人生の教科書
「患者が望む理想の医者」と題して、次のような8か条を掲げ、それらがなぜ大切なのかを丁寧に綴った部分が、この書のいわば本論です。
第1条:医者というのは、患者さんの病気だけを見ていれば良いというものではない。
第2条;患者さんは、誰もが、自分の受ける治療や検査等に、不安を抱えている。
第3条:患者さんは、いつ苦しみ出すか分からない。
第4条:入院している患者さんにも自分の生活がある。
第5条:入院している患者さんにとって、ベッドは我が家のようなものだ。
第6条:患者や、患者の家族は、手術や検査の結果を心待ちにしている。
第7条:患者さんとの関係は、治療が終わればおしまいという訳ではない。
第8条:医者はどんな状況でも諦めてはならない。
医師、医療関係者はもちろん、生きることの初心にかえりたい方にお勧めの作品です。
ほかにも「命の尊さ」や「差別」について書いた倫太郎くんの文章や詩なども収録された珠玉の一冊となっています。