人道援助とは何かを考え直す本
想像してみてほしい。あなたが援助活動家なら、どうするだろうか。
人々を助けようと持ちこんだ援助物資によって、殺人者たちがより力を増しているとしたら・・・?
苦しんでいる人々に少しでも早く水や食料を届けるために、ジェノサイド実行犯グループと手を結ばなければならないとしたら・・・?
あきらめて立ち去るのか?
あるいはどんな犠牲を払ってでも援助を与え続けるのか?
著者のリンダ・ポールマンはオランダ人のフリージャーナリスト。国際的軍事介入や人道援助について、20年以上西アフリカや東アフリカ、アフガニスタン、ハイチなどの紛争地帯で取材を続けている。オランダのTVやラジオ、ヨーロッパのラジオ局、オランダ、ベルギーの新聞社と提携しているほか、The Times (ロンドン)やl’Internazionale(ローマ)などにもルポやコラムを多数寄稿している。
一般的に、人道援助については倫理的に正しい行動だとして、無条件に高く評価するきらいがある。だが実際には、その現場はよく知られておらず、援助の効果がどうだったのか、誰に援助したのか、についてはあまり知られていない。
著者は、ゴマのキャンプや内戦の続くシエラレオネのフリータウンのキャンプ、内戦の続くリベリア、タリバーンが支配するアフガニスタンなど、紛争地帯における人道援助団体が活動している場所にいき、その熾烈な現場をつぶさに観察してきた。そこには、援助を狙う民兵組織、援助を滞りなく行き渡らせるために現地の強い団体に癒着せざるをえない援助機関、一つの紛争地帯にむらがる何百もの援助団体間での広告宣伝競争、そして人道援助が戦争の道具にされている――という厳しい現実があり、現場はつねに矛盾に満ち、ジレンマに悩まされている。
著者が問うているのは、アンリ・デュナンが創設した、人道援助団体の総本山たるべき国際赤十字の掲げる「公正・中立・独立」原則そのものまで溯る。援助の動機さえよければいいのか、中立性原則や公平性原則が、その援助の結果、殺し屋を育てることになるという「結果」よりも本当に大事なのか――?
本書は、そうした知られていない人道援助の現場の混乱状態を臨場感あふれる筆致で再現し、人道援助とは何か、援助団体の「善意」を悪用されることなく必要とする人々に届けるにはどうしたらいいのか、という疑問を鋭く投げかけており、非常に刺激的な内容となっている。人道援助に興味があり、これまでも何らかの形で関わってきた人だけでなく、これから何か社会のために奉仕したい、と漠然と考えている若者たちにも、人道援助とは何かに対してもう一度考え直すきっかけとなる本。
序 章 第1章 ゴマ――完全なる倫理的災害 第2章 契約フィーバー 第3章 モンゴ(MONGOs) 第4章 ドナーのお気に入り 第5章 戦争の武器としての援助 第6章 難民戦士たち 第7章 兵糧責め 第8章 被援助側が支配するとき 第9章 アフガン詐欺 第10章 人道主義時代の論理 あとがき――彼らに質問をあびせよ 付 録 援助業界裏用語
リンダ・ポルマン
Linda Polman
フリーランスのオランダ人ジャーナリスト。『だから、国連はなにもできない』(We Did Nothing-Why the Truth Doesn't Always Come Out When the UN Goes In, Viking, UK, 2003)などの著作があるほか、オランダで発行されている新聞や雑誌ならびに英国の日刊紙であるThe Timesや雑誌Grantaなどにコラムやルポルタージュを多数寄稿している。
大平 剛 【訳者】
おおひら・つよし
1965年大阪府生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程満期退学。博士(学術)。現在、北九州市立大学外国語学部国際関係学科教授。専門は国際政治学、国際協力論。主著に『国連開発援助の変容と国際政治―UNDPの40年』(単著、有信堂高文社、2008年)、訳書にメアリー・B・アンダーソン著『諸刃の援助――紛争地での援助の二面性』(明石書店、2006年)。