命懸けで脱北者を追い続けた1700日
私は、2007年3月から4年半余りにわたって脱北者を取材した。
韓国内はもちろん、ロシアやキルギスタン、ウズベキスタン、中国、ラオス、カンボジア、
タイ、日本、米国、英国、スイス、ベルギー、スペイン、オランダと十五カ国を歩いた。
インタビューに応じてくれた脱北者だけで300人になる。
彼らに会うことは、驚きの連続だった。
私は、中国と北朝鮮の国境地帯で人身売買をするブローカーにも会った。
麻薬を売る北朝鮮の軍人と値段交渉もした。
自由を求めて第三国へ密入国する脱北者に同行して何回も国境を越えた。
韓国大使館から追い出されて、別の国境に向かったこともある。
外界と隔絶された、シベリアのど真ん中にある北朝鮮の伐採事業所を訪ねていきもした。
エンジンが切れた密航船に乗って大海原を漂い、
中国と東南アジアの公安に捕まって監獄にぶち込まれそうになったこともある。
さらには、密林の中を強行軍で進んだ揚げ句、気力が尽きて死にかけたこともあった。
私は、脱北者たちを取材しながら考えただけで気が遠くなりそうな経験をした。
人身売買で売られた20歳ちょっとの北朝鮮女性は、
これで故郷の両親がひもじい思いをしなくてすむと力なく笑った。
ブローカーが彼女の対価として親に渡したのは、
100万ウォン(約9万円)にも満たなかった。
別の取材で会った中国の農村へ売られてきた女性は、
子供を産み、育てながら、一日中働いていた。
朝鮮半島のお盆にあたるチュソク(中秋)を前にしたある日、
彼女たちは故郷の母が恋しいと涙を流した。
脱北者が中国で産んだ子供は国籍を得ることができない。
彼らは「幽霊」と呼ばれた。
悲劇は次の世代にまで及んでいたのだ。
中国を脱出する中で生き別れとなる人々の姿も見てきた。
息子を手放さざるを得なくなって血の涙を流す母。
別れを告げられた息子は、母の前で号泣した。……
BBC、PBS、CANAL+、NHKなど、25カ国で放送され、世界中が涙したドキュメンタリー番組、待望の書籍化。
驚愕の事実に、涙なしでは読めない。
ローリー・ペック賞 ソニー・プロフェッショナル・インパクト最優秀賞
モンテカルロ・テレビ際 ドキュメンタリー部門最優秀賞