犠牲者意識ナショナリズム

国境を超える「記憶」の戦争

林 志弦著/澤田 克己訳
2022年7月22日 発売
定価 3,520円(税込)
ISBN:9784492212523 / サイズ:四六/上/560

ポーランド、ドイツ、イスラエル、日本、韓国――
犠牲者なのか、加害者なのか?
その疑問から記憶を巡る旅が始まった!
韓国の各メディアが絶賛した話題作、待望の翻訳!

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 2007年1月18日朝、新聞を広げた私は首をひねった。購読する進歩系と保守系の新聞どちらも、『ヨーコの物語』(邦訳:『竹林はるか遠く:日本人少女ヨーコの戦争体験記』を批判する記事が文化面トップを飾っていたのだ。どうということのない本のように思えたが、驚くほど大きな記事だった。

 韓国メディアの激しい批判は、「韓国民族イコール被害者」「日本民族イコール加害者」という二分法が揺さぶられたことへの当惑を表すものだったのだろう。避難する日本人女性を脅し、強姦する加害者という韓国人のイメージが日本の植民地支配に免罪符を与え、歴史を歪曲するという憂慮が行間から読み取れた。

 その心情は理解できるものの、その二分法が常に正しいわけではない。韓国が日本の植民地主義の被害者だったというのは民族という構図でなら正しいが、個人のレベルでは朝鮮人が加害者に、日本人が被害者になる場合もある。個々人の具体的な行為ではなく、集団的所属によって加害者と被害者を分ける韓国メディアの報道は、「集合的有罪」と「集合的無罪」に対するハンナ・アーレントの批判を想起させた。

 それ以上に興味深かったのは、論争の火が遠く離れた米国で広がったことだ。米国で6~8年生向け推薦図書リストにこの本が入り、ボストンとニューヨークに住む韓国系の保護者たちが2006年9月に異議を唱え始めたのが始まりだった。
『ヨーコ物語』騒動を見ながら、私はドイツとポーランド、イスラエルの記憶の戦争を思い出し、「犠牲者意識ナショナリズム」という概念を思いついた。

(はじめにより)

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【犠牲者意識ナショナリズム】
植民地主義や二度の世界大戦、ジェノサイドで犠牲となった歴史的記憶を後の世代が継承して自分たちを悲劇の犠牲者だとみなし、道徳的・政治的な自己正当化を図るナショナリズム。グローバル化した世界で出会った各民族の記憶は、互いを参照しながら、犠牲の大きさを競い、絡み合う。記憶が引き起こす歴史認識紛争がいま、世界各地で激しさを増している。

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概要

なぜ日韓の溝は深まるばかりなのか? 世界各地で拡大・先鋭化する犠牲の大きさを争う記憶の戦争に警鐘を鳴らす話題作、待望の翻訳。

目次

第1章 系 譜
第2章 昇 華
第3章 グローバル化
第4章 国民化
第5章 脱歴史化
第6章 過剰歴史化
第7章 併 置
第8章 否 定
第9章 赦し
終 章 記憶の連帯へ向けて
補 論 記憶の歴史

著者プロフィール

林 志弦  【著】
いむ・じひょん

韓国・西江大学教授、同大学トランスナショナル人文学研究所長。1959年ソウル生まれ。1989年西江大学博士(西洋史学)。韓国・漢陽大学教授、同大学比較歴史文化研究所長などを経て2015年から現職。専門は、ポーランド近現代史、トランスナショナル・ヒストリー。ワルシャワ大学、ハーバード燕京研究所、国際日本文化研究センター、一橋大学、ベルリン高等学術研究所、パリ第2大学、コロンビア大学などで在外研究と講義を重ね、各国の研究者と共にグローバル・ヒストリーという観点から自国中心の歴史を批判してきた。現在は、記憶の研究に重点を移し、東アジアの歴史和解を模索している。著書に、Global Easts: Remembering, Imagining, Mobilizing(Columbia University Press)など。


澤田 克己  【訳】
さわだ かつみ

毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、韓国・延世大学で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。ソウル特派員、ジュネーブ特派員、外信部長などを経て2020年から現職。著書に『「脱日」する韓国』(ユビキタ・スタジオ)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『新版 北朝鮮入門』(共著、東洋経済新報社)など、訳書に『天国の国境を越える』(東洋経済新報社)。