本書の構成は、第1部(国際支援と安全保障)で危機対応のための外国との協力において生じた諸問題を分析し、第2部(危機時コミュニケーションと外国の反応)では危機時のコミュニケーションと外国の反応に焦点をあてる。第3部(原発の安全性向上と日本)は原子力発電所の安全性向上への日本の関与を分析している。3部を通しての注目点は、日本の国際的信頼性・評判(ソフトパワー)と安全保障体制である。第1部の2つの章(3章、4章)が震災・原発危機と日本の安全保障体制との関係を扱うのに対して、他の7つの章はソフトパワーに関連するテーマに着目している。
第1部の最初の章(第2章)は、震災・原発危機にあたって海外から寄せられた支援の受け入れをめぐる諸問題を分析する。世界の耳目を集めるような大災害の場合には、援助隊や援助物資をどのように受け入れたか、あるいは辞退したかは、援助申し出国でも大きく報道されるので、日本の外交上の立場を阻害しないためには、注意深い対応が必要になる。第3章と第4章は、海外からの支援の中でも、規模も重要性も最大だった米国による支援と、それが日米同盟と日本の安全保障体制にとって持つ意味を分析する。
第2部の3つの章は、日本の危機時コミュニケーションの実態と影響を扱う。大きな危機が発生したとき、国内に住む外国人や外国大使館に対して、彼らが求める情報を迅速に伝えることは、危機対処の能力として欠かせない。日本語が不自由で、日本社会に十分な人的ネットワークをもたない多くの外国人は、情報がないゆえに、日本人よりも不安に陥りやすい。福島原発危機は、首都圏からの避難という大問題につながることだったので、自国民保護を使命とする外国大使館と外国政府にとって、正確な情報を得ることが特に重要であった。
第3部の3つの章は、原子力発電所の安全性の改善に日本がどのように関与しようとしているかに焦点をあてる。日本が原発の安全性改善に貢献する能力があることを世界に示すためには、なによりもまず福島第一原発事故の後遺症である放射能汚染問題を解決に導かなければならない。そこで第8章では、食品汚染と汚染水に関する日本政府の対応を中心に分析を進める。第9章は、福島原発での危機発生から今日にいたるまで、日本政府と国際機関がどのような関係をもってきたかを分析する。第10章は、福島原発危機が諸国の原子力政策に与えた影響を分析する。
最後の第11章は、全体を総括する章である。外国支援の受け入れ、日米協力、危機時コミュニケーション、放射能汚染問題への対処、原発安全に関する国際機関などとの協力において、日本がどこまで国際的な信頼と評判を維持できたのか、また大きな危機に直面して自国の安全保障を維持する能力を示し得たのか、そして課題と教訓は何なのかが議論されている。