本書の目的は、2011年3月11日の東日本大震災を生き抜いた人々が、震災後の新しい世界に適応していくために、どのように情報メディアや周囲の人々から情報を得てきたかを、実証データに基づいて多角的な視点から描こうと試みるものである。新しい世界への適応とは、災害によって生じた状況を受けとめ、心理的に反応し、社会的に行動することで事態に対処していくことを指す。本書では適応がどこまで情報メディアの利用行動と利用可能性の産物であったかを明らかにする。
全体の構造は、第1に東日本大震災時の情報環境であったマスメディアとインターネットがもたらした情報の様相を検討する、第2に情報行動調査の分析として、被災地・非被災地市民のコミュニケーション・心理・行動を被災後1年半の時点までにおいて精査する、第3に情報メディアの多重化と情報行動の適応性とを考察し、情報疎外についての知見を深める、最後に防災・減災のためのメディア接触のあり方を検討する、の4点から成り立っている。
本書では、まず、メディアが同時並行的に利用可能なように「多重化」されてきた歴史的経緯と、災害時にも接触しうるメディアが確実に存在する必要性を検討する(第2章)。そして東日本大震災において、マスメディアとインターネットの双方が合わせて総体的にどんな情報環境を形成していたかの検討を行う(第3~4章)。
第3章と第4章では社会に流通した情報のマクロな全体像を描く。第5章から第7章では、情報の受け手であり発信者である人々の情報受発信の姿を描き、マクロの情報環境の下で人々がどう行動したのかを、ミクロの姿として描かれている。
第8章では多重化されたメディアそれぞれの機能を分析しつつ、多重のメディアの下でさえ適切な情報に接し損なう「情報疎外者」が生じ、心理的・社会的不適応の可能性があることを示す。
以上の分析を踏まえて最後の第9章では、今後の防災・減災に関するメディア接触への含意と教訓を考察する。