対外不均衡のダイナミズムを核に、
世界経済の変貌の源流を解明する。
●1980年代には先進国と新興国・発展途上国の両地域間での経常収支の不均衡は顕著には見られない。しかし1990年代に入ると、先進国では経常収支黒字が、新興国・発展途上国では経常収支赤字が持続しはじめている。
そして1998年のアジア通貨危機以降、これまで赤字基調であった新興国・発展途上国は一転して黒字となり、以降急速に黒字を増加させはじめている。
他方、先進国では逆に赤字となりはじめ、赤字額は毎年増加している。そして2000年代前半に入り、不均衡は一段と拡大している。
このように今日の世界経済では、従来とは異なる新たな対外不均衡が出現し、「グローバル・インバランス」として衆目を集めている。
●経常収支を貯蓄・投資バランスとしてとらえる時、このような経常収支の推移の背後には、各国の家計、企業、政府といった経済主体の行動様式の変化が生じていたと考えられる。
つまり各国の消費や貯蓄、投資の決定メカニズムとはどのようなものなのか、そのメカニズムはどのように変化しているのか、という点を精緻に考察していくことによって、経常収支の動向、ひいては世界経済の変化の特徴を、より鮮明に浮き彫りにすることができるはずである。
●マクロ経済学の潮流を踏まえた、10年にわたる研究成果の結実。
序 章 本書の目的と構成 第1章 世界経済の新たな潮流: 国際金融市場の統合と対外不均衡の拡大 第2章 金融の自由化・国際化の進展:1980年代以降の軌跡 第3章 対外不均衡の理論(1):基礎的モデルの展開 第4章 対外不均衡の理論(2):新しいモデルの発展 第5章 貯蓄のダイナミズム:部門別貯蓄の代替性 第6章 消費行動のダイナミズム:流動性制約とマクロ経済 第7章 投資のダイナミズム: 開放経済における資本ストック調整 第8章 政府活動のダイナミズム:双子の赤字の発生可能性 第9章 経常収支の構造的変動と循環的変動:代替的予測 第10章 資本収支の構造的変動と循環的変動: 米国における資本流入のメカニズム 第11章 グローバル・インバランスの発生と調整: 概念整理と予測 終 章 新たな世界経済のデザイン
松林洋一
まつばやし よういち
1963年、山口県生まれ。1991年、神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程中退。
現在、神戸大学大学院経済学研究科教授、博士(経済学)。
主要論文として、“Exchange Rate, Expected Profit and Capital Stock Adjustment: Japanese Experience,” Japanese Economic Review, 2010, forthcoming; “Structural and Cyclical Movements of the Current Account in Japan: An Alternative Measure,” Japan and the World Economy, 2006, Vol.18, pp.545-567; 「家計貯蓄・企業貯蓄・政府貯蓄:代替性の日米比較」『経済分析』(内閣府経済社会総合研究所)、2009年、第181号、pp.46-77;「米国経常収支・資本収支の構造的変動と循環的変動」『フィナンシャル・レヴュー』(財務省財務総合政策研究所)、2009年、第95号、pp.93-118。