市場均衡アプローチによる最新テキスト
日本のマクロ経済学のテキストは、基本的にケインズ経済学の立場から執筆されている。それに対して本書は、市場均衡アプローチ、すなわちマクロ経済モデルをミクロ経済学原理から組み立てる手法により執筆されている。
本書では、価格の変化による市場均衡を仮定するマクロ経済学のミクロ的基礎を重視することにより、最初に消費者と企業の行動が分析される。つぎに市場均衡を定義してマクロの関係を導出し、モデルを組み立てる。モデルが完成すると、外生変数を変化させたときに内生変数がどのように変化するかを調べる。このようにいくつかのステップを踏んでモデルを組み立てることにより全体像をつかんでいくというアプローチが本書ではとられている。
これは経済成長や景気変動の分析では有効かつ生産的なアプローチであるが、動的計画法やオイラー方程式などの高度な数学的手法が必要な分析であり、技術的な壁が高かった。
テキストとしての本書では、簡単な式とグラフにより説明することにより、経済的な議論に集中できるように工夫がされている。また理論を現実のデータによって検証するなど、読者が明確な問題意識をもって読み進めることができる構成となっている。練習問題も豊富な最新のアプローチにもとづいた中級マクロのテキストである。
第2巻では、実物的モデルに貨幣を導入してマネーの効果や金融政策の役割を分析する。さらに開放経済のもとでの景気変動や経済成長を考察し、インフレーションやデフレーション、失業問題などの現代経済の重要課題を分析する。
第II巻 応用篇 第V部 貨幣と景気変動 第10章 貨幣的異時点間モデル:貨幣、物価と金融政策 第11章 景気変動の市場均衡モデル 第12章 ケインジアンの景気変動理論:硬直賃金と硬直価格 第VI部 国際マクロ経済学 第13章 財と資産の国際取引 第14章 開放経済における貨幣 第VII部 マクロ経済学のトピックス 第15章 貨幣、インフレーションとバンキング 第16章 失業:ジョブサーチと効率賃金 第17章 インフレーション、フィリップス曲線と中央銀行のコミットメント 数学付録II
スティーブン・D・ウィリアムソン
Stephen D. Williamson
ワシントン大学(セントルイス)のロバート・S・ブルッキングス特別教授。リッチモンド連銀の客員研究員とセントルイス連銀のリサーチフェローを兼務。
カナダ・キングストンのクウィーンズ大学で数学と経済学を修めたあと、ウィスコンシン大学で経済学の博士号を1984年に取得。クウィーンズ大学、ウェストオンタリオ大学、アイオア大学で教鞭を取り、ミネアポリス連銀とカナダ銀行でエコノミストとして勤務。
またアトランタ、クリーブランド、カンザスシティ、ミネアポリス、ニューヨークの各連銀と連邦準備制度理事会でアカデミック・アドバイザーも経験する。
さらにロンドン・スクール・オブ・エコノミックス、エジンバラ大学などを長期間訪問し、最近は中国の復旦大学で講義をしている。
American Economic Review、Journal of Political Economy, Quarterly Journal of Economics, Review of Economic Studies, Journal of Economic Theory, Journal of Monetary Economics、その他の著名なジャーナルに多数の論文を発表。ニューマネタリズムを提唱している新進気鋭の学者である。連邦準備銀行に勤務した経歴からもわかるように、理論に偏らない現実を見すえた研究スタイルに特徴がある。
釜 国男 [訳者]
かま・くにお
1948年 熊本市に生まれる。
1972年 熊本大学法学部卒業。
1977年 東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。
現 在 創価大学経済学部教授。経済学博士(ペンシルベニア大学、1981年)。
著 書 『経済行動の数量分析』多賀出版、2001年、ほか。