秩序崩壊 21世紀という困難な時代

ヘレン・トンプソン著/中野 剛志解説/寺下 滝郎訳
2025年3月26日 発売
定価 3,960円(税込)
ISBN:9784492444863 / サイズ:四六/上/560

トランプのエネルギー支配外交を予言!
西洋近代は「文明の死」に向かうのか。
「エネルギー、グローバル金融、民主主義」3つの歴史を軸に、長期的な地政学的物語でそのゆくえを鮮やかに描く。
『フィナンシャル・タイムズ』ブックオブザイヤー。

誤解を恐れずに、トンプソンの歴史的分析をさらに約言するならば、2016年のブレグジットやトランプの大統領選勝利、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の原因は、1960年代から70年代にかけて、エネルギーを巡って生じた世界の政治経済構造の亀裂に求めることができるということである。――中野剛志「日本版解説」より

【本書のポイント】
◎大混乱の起源は「1956年のスエズ危機」
・スエズ危機とは:エジプトのナセル大統領がスエズ運河を国有化し、イスラエル船舶の通行を禁止。英仏イスラエルの3か国はエジプトに軍事行動を開始したが、アメリカがイギリスに圧力をかけ停止。英国の国力低下が白日の下に
・この件で、西欧諸国は「ソ連産」原油に頼ることに。NATOの結束に亀裂が生じる
・2022年のウクライナ戦争で、ロシア産のガス・原油に依存するドイツなど欧州諸国が、対露制裁を求めるアメリカとの間でディレンマに→1956年のスエズ危機と同じ構造が続いている
◎グリーンエネルギー重視が招く中国依存、雇用喪失、貧困と分断
・化石燃料にとって代わるどころか、むしろ、その投入に頼る結果に
・電気自動車などの生産は、先進国ではなく、化石燃料に依存するアジアで行われる
・ゆえに、化石燃料が生み出してきた地政経済学的力学は、当面残存
・レアアースという希少資源を産出する中国への依存度を高め、新たな地政学的問題を生む
・グリーンエネルギーへの投資は、一部の企業や投資家たちを儲けさせる一方で、国内の雇用をあまり創出しない→エネルギーのコスト高を招いて労働者階級を苦しめ、社会を分断

【本書の内容】
21世紀は、地政学(エネルギー)、経済(グローバル金融)、政治(民主主義)、それぞれの面で強烈な衝撃が世界を襲った。その結果、各国の中央銀行は25兆ドルを超える新たなマネーを創出し、地政学的競争の新時代が到来し、中東は不安定化し、欧州連合(EU)は加盟国間の軋轢が激化し、アメリカでは古くからの政治的断層が露呈した。
本書は、この現在の政治的瞬間を緻密に描いた歴史書である。地政学の歴史、世界経済の歴史、西側民主主義諸国の歴史という3つの歴史を織り交ぜて語り、パンデミック直前の数年間が政治的に無秩序な状態にあったなかで、それぞれの混乱が一つの大きな物語を紡ぎだしてきた様子を説明している。また、その混乱の多くが、化石燃料エネルギーによって引き起こされた問題に端を発していることを示し、グリーン・トランジション(環境に配慮した持続可能な社会への移行)が進むにつれ、エネルギーが必然的に生み出した長期的な課題がなかなか解決できない事情を明らかにしている。

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概要

トランプのエネルギー支配外交を予言!「エネルギー、グローバル金融、民主主義」3つの歴史を軸に、そのゆくえを鮮やかに描く。

目次

ペーパーバック版への序文

序論

<第Ⅰ部 地政学>

第1章 石油の時代が始まる

第2章 アメリカに石油供給の保証は望めない

第3章 生まれ変わるユーラシア

<第Ⅱ部 経済>

第4章 ドルはわれわれの通貨だが、それはあなた方の問題だ

第5章 メイド・イン・チャイナにはドルが必要

第6章 ここはもうカンザスじゃない

<第II部  民主主義政治>

第7章 民主主義の時代 

第8章 民主主義的租税国家の盛衰 

第9章 改革の行方

結論 変われば変わるほど

追記 2022年以後――戦争

訳者あとがき

<日本語版解説>
エネルギーを軸に回転する世界(中野剛志)

著者プロフィール

ヘレン・トンプソン  【著】
へれん・とんぷそん

EUの将来、石油を含むエネルギー問題、イギリス政治、アメリカ大統領選挙、イスラエル・ガザ紛争、ウクライナ・ロシア戦争、中国の地政学的影響など、さまざまなトピックについて、『ニューヨーク・タイムズ』『フィナンシャル・タイムズ』『ガーディアン』などの新聞、『フォーリン・アフェアーズ』などの雑誌に寄稿している。主な著作に、2008年にマンチェスター大学出版局から出版されたMight, Right, Prosperity and Consent: Representative Democracy and the International Economy 1919-2001(「力、権利、繁栄、同意――代議制民主主義と国際経済1919~2001年」未邦訳)がある。同書は、民主主義国における国家の権威の問題について、権威というものを主に国内政治や規範的価値観の問題として扱う多くの民主主義論とは異なり、国際経済を中心に据えた独創的な分析を行っている。

中野 剛志  【解説】
なかの たけし

評論家。1971年、神奈川県生まれ。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『国力論』(以文社)、『富国と強兵ー地政経済学序説』(東洋経済新報社)、『変異する資本主義』(ダイヤモンド社)、『政策の哲学』(集英社)などがある。

寺下 滝郎  【訳】
てらした たきろう

翻訳家。1965年広島県呉市生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業。東洋英和女学院大学大学院社会科学研究科修了。訳書にウォルター・ラッセル・ミード著『神と黄金―イギリス、アメリカはなぜ近現代世界を支配できたのか』(青灯社、上下巻)、マイケル・リンド著『新しい階級闘争ー大都市エリートから民主主義を守る』(東洋経済新報社)、ジョエル・コトキン著『新しい封建制がやってくるーグローバル中流階級への警告』(東洋経済新報社)などがある。