監訳者のことば
本書の原著との“なれそめ”は、古くからのネットワークからの情報だった。“絆”を意味するその組織は、製薬業界をはじめとする人々の織りなす緩やかで世界的なネットワークだ。
私は遅筆なので、そこで交わされる“会話”について行くのがやっとで、自分で書き込みすることなど、おぼつかないのだが、先に訳出した『ビッグ・ファーマ』(篠原出版新社)といい、本書『製薬業界の闇』といい、そのインナーサークルのお勧め本だ。
この仲間は自分たちが身を置くその世界を誇らしく感じるとともに忌み嫌うという、アンビバレントな状況にある。数少ない東洋人としての私の役割は、そんな彼らに自らの日本人としての感性を伝えることだ。
彼らに反省を迫る事件、そのひとつが本書の刊行だった。メガファーマの住人たちも恐竜のように肥大化し、自らを律することができなくなっている現状に、いささかなりとも危機感を抱いた。傍からは人生の成功者に見える彼らとて、全員が全員、充実した人生を歩んでいるわけではなく、仲間を意図せずして裏切ったり、不本意に職を辞したり、身内に自殺者を出したりの連続なのである。そして、彼らはそんな人間の絆が不意に断ち切られる世の中に厭世的となった。自分たちが創りだした世界であるにもかかわらず。
本書の読みどころは、そんな爛熟した孤独な現代社会である。いったん勝負を始めてしまったら、決して降りることができない、そんな不快なゲームにみな疲れ果てている。“絆”のメンバーのそうした“会話”を傍聴して、私はこの国をかの国のようにしてはならないと誓った。
どうか十分に本書を読みこんでいただきたい。「どんな組織にも汚いところがあるのだから、こんな話は陳腐だ」とか、「これを書いた人は潔くない」とか、いろんな批判はあるだろう。しかし、それではあまりに表層的だ。ここまでM&Aの裏側やかの国の人事労務の実態を生々しく書いてある本が他にあるだろうか。大切なことは、わが国がかの国の後ろを歩んでいるということだ。それが幸せなことかどうか、もう一度考えてみてほしい。
プロローグ 2005年12月31日(土) 第1章 獲物を狙うハゲタカ 第2章 征服者 第3章 解雇の芸術 第4章 犯罪と不正行為 第5章 おまえはクビだ! 第6章 私立探偵 第7章 調査 第8章 性の乱れ 第9章 自殺? 第10章 電話の監視 第11章 販売数の水増し 第12章 驚愕の事実 第13章 証券取引委員会の介入 第14章 業界にはいられないぞ 第15章 起爆剤となった書評 第16章 すべてを賭けて 第17章 連邦議会をあおる 第18章 政治問題になった尋問 第19章 腐りきった製薬業界 第20章 米国食品医薬品局(FDA)の秘密 他