イノベーションの長期メカニズム

逆浸透膜の技術開発史

藤原 雅俊著/青島 矢一著
2019年8月30日 発売
定価 5,400円(税込)
ISBN:9784492534113 / サイズ:A5/上/472

 「産業形成につながる紆余曲折のある長いイノベーションのプロセスを、企業の利潤動機と市場競争の機能だけに還元して説明することは不可能であるように思える。なぜなら、不確実性の高いイノベーション活動へ資源配分を行うことの経済的根拠を、広く人々が納得するように、透明性をもってあらかじめ説明することは難しいと思われるからである。そうであるならば、収益圧力に晒される企業は、将来の収益を計算できないような新技術や新事業の開発活動を、最終的に産業が形成されるまで、どのようにして継続することができるのだろうか。つまり、『高い不確実性の下で新技術や新事業の開発が長期にわたって継続されるのはなぜなのか』。この問いが本書の出発点となる問いである。イノベーションを通じた産業形成を解明するには、この問いに答えなければならない。
 この問いに基づいて本書では逆浸透膜開発の歴史を分析する。逆浸透膜とは様々な原水から真水を造るための半透膜である。その開発は、水不足という明確な社会課題の解決を目的として始まったものである。次節で説明するように、社会課題解決型技術の開発には特に高い不確実性が伴うことが多く、それを長期にわたって継続する過程において企業は、必然的に、様々な困難に直面することになる。それゆえ、社会課題解決型技術の開発に注目することによって、イノベーション活動の前に立ちはだかる数々の困難が克服される過程がより鮮明に描き出されると考えられる。」
――序章より

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概要

逆浸透膜の技術開発プロセスの歴史的分析を通じて、長期にわたってイノベーション活動が継続するメカニズムを明らかにする。

目次

 序章 本書の目的と問い
第1部 概要編
 第1章 水処理需要の高まりと逆浸透法
 第2章 逆浸透膜の技術概要
第2部 米国史編
 第3章 公的機関における研究の始まり
 第4章 民間企業による事業化開発
第3部 国内史編
 第5章 日本企業の台頭
 第6章 東レ:海水淡水化を目指した開発
 第7章 東洋紡:酢酸セルロース系中空糸膜での集中展開
 第8章 日東電工:収益圧力下での開発
第4部 分析編
 第9章 政策的刺激とスピルオーバー:開発着手の日米比較
 第10章 初期市場の探索:性能の束の不均衡発展
 第11章 技術的ブレイクスルーによる開発焦点化
 第12章 企業特有の開発理由
 第13章 不確実性下における長期開発メカニズム
 終章 本書の貢献と今後の展望
 補論 特許データの整理について

著者プロフィール

藤原 雅俊  【著】
ふじわら まさとし

1978年広島県生まれ。2005年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了(商学博士)。京都産業大学経営学部専任講師、准教授を経て、13年より一橋大学大学院商学研究科准教授。18年4月より同大学院経営管理研究科准教授。10年から11年にかけてコペンハーゲン・ビジネス・スクール客員研究員。
主な著作:『ICTイノベーションの変革分析──産業・企業・消費者行動との相互展開』(共編著、ミネルヴァ書房)、“Ambidextrous Capability: The Case of Japanese Enterprises.”(Peter Ping Li, ed., Disruptive Innovation in Chinese and Indian Businesses: The Strategic Implications for Local Entrepreneurs and Global Incumbents. Routledge所収)。

青島 矢一  【著】
あおしま やいち

1965年静岡県生まれ。87年一橋大学商学部卒業。89年同大学大学院商学研究科修士課程修了。96年マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院博士課程修了(Ph.D.)。一橋大学産業経営研究所専任講師、一橋大学イノベーション研究センター准教授等を経て、2012年より同教授。18年4月より同センター長。
主な著作:『イノベーションの理由』(共著、有斐閣)、『メイド・イン・ジャパンは終わるのか』(共編著)、『競争戦略論(第2版)』(共著、いずれも東洋経済新報社)。