禁断の市場

マンデルブロ,B.B.著/ハドソン,R.L.著/高安 秀樹監訳/雨宮 絵理訳/高安 美佐子訳/冨永 義治訳/山崎 和子訳
2008年6月6日 発売
定価 2,592円(税込)
ISBN:9784492654170 / サイズ:サイズ:四六判/ページ数:440


訳者コメント



「フラクタル」という言葉、あるいは本書の著者である「マンデルブロ」について、年齢が40歳以上の方々は文系・理系を問わず、どこかで聞き覚えがあると思います。

理系あるいは数学・物理学を学んでいる方々にとっては、「幾何学」の確立した一分野として馴染み深いものでしょう。



フラクタルとは、全体を一定の割合で縮小すると部分が再現できることを指します。数学としては、部分と全体が自己相似であることを言います。1970年代にマンデルブロにより命名され体系化された概念です(フラクタルという名前の由来については、本書167ページ参照)。

それ以降、フラクタル幾何学は、自然現象との幅広い関わりが研究されて、統計物理学、宇宙論、気象学、水文学、地形学、解剖学、分類学、神経学、言語学、情報技術、コンピュータグラフィックスなどの分野にさまざまな影響を及ぼしています。



インターネットで「フラクタル」あるいは「マンデルブロ集合」を検索していただければ、どこかで見たような図を多数見ることができます(ちなみに、インターネットにおける情報の流量の計測や、インターネットを通して送られてくる画像圧縮の技術にもフラクタルの概念が利用されています)。



それらの図のなかに、海岸線や雲などの風景を描いたものがあります。一見して「写真」のようですが、コンピュータが計算して描いたグラフィックスです(本書196ページの「雲」の図、324ページの「山脈」の図をご覧ください)。



マンデルブロ以前には、自然の世界において「雲は丸くないし、山は円錐ではないし、海岸線は滑らかではない」ことを数学的に説明することは不可能でした。それを明らかにしたのが、1982年に刊行された『フラクタル幾何学』(マンデルブロ著、翻訳は1985年)です。その功績は「私たちが自然を見る目を変えてくれた」と称えられ、1993年には物理学の世界で権威あるウォルフ賞を受賞しています。また日本との関連では、科学技術の進歩に大きく寄与した功績について2003年に日本国際賞を受賞しています。



本書『禁断の市場――フラクタルでみるリスクとリターン』は、その考え方を金融市場に応用したものです。

マンデルブロにとっては、1960年代から続けてきた研究ですが、一般書の形で発表されるのは本書が初めてです。



マンデルブロの研究は、所得の分布と綿花の市場価格の変位の分布、乱流状態にある流体エネルギー散逸量の変動と金融市場におけるボラティリティの変動の類似性など、グラフを見比べて「似ている」と感じた直感に基づいて研究が発展したそうです(本書には、実際の株価のチャート、標準的な金融モデルに基づくチャート、マンデルブロ・モデルに基づくチャートなど、さまざまな図が描かれています。37ページ、39ページなど。見比べてみてください)。



本書では、「自然現象のフラクタルと経済現象のフラクタル」は同一のものであり、このフラクタル幾何学を金融市場に適用することによって「ランダムウォーク理論からは予想できないバブルの発生と崩壊」が理解できるようになるというマンデルブロの考え方を、本文では数式を用いることなく示しています。



現在の金融工学の基礎となっているのは、コインを投げて、表が出たら相場が上がり、裏が出たら相場は下がる、という最も単純な「マイルド型」のランダムさの変動をモデル化した概念です。しかし実際の市場は「理不尽な動き」をする「ワイルド型」のランダムさに基づいて動いています。実際の市場の動きを説明しモデル化できるのは、「洪水」や「大気の乱流(タービュランス)」などを説明できる「マルチフラクタル・モデル」であるとマンデルブロは主張しています。



2008年1月に開催されたダボス会議の中で、サブプライムに揺れる世界(米国)経済についてライス国務長官は、「われわれは今、タービュランス(乱気流)のなかにいる」と発言し、話題になりました。ちなみに、サブプライム危機の原因を作り出したとの批判も一部でなされているグリーンスパン前FRB議長の回顧録『波乱の時代』(日本経済新聞出版社)の原書タイトルは『The Age of Turbulence』です。



「タービュランス」の金融市場を理解するためにも、本書をご一読ください。


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概要

市場は効率的ではなく、金融工学の前提である正規分布ではなく、ベキ分布で動いていることを明らかにした「フラクタル金融理論」の提唱者が示す、社会・金融への新しい視点。

目次


第1部 たどってきた道
第1章 リスクトリターン
第2章 運を決めるのは、サイコロか、弓矢か?
第3章 バシェリエの功績
第4章 金融工学の楼閣
第5章 金融工学の落とし穴

第2部 新たな道
第6章 市場の乱流―はじめに
第7章 凸凹の研究―フラクタル入門
第8章 綿花価格のミステリー
第9章 長期記憶―ナイル川から市場まで
第10章 ノア、ヨセフ、そして市場のバブル
第11章 トレーディング時間のマルチフラクタル性

第3部 これからの道
第12章 禁断の金融10ヶ条
第13章 実験室にて

著者プロフィール

ベノワ・B・マンデルブロ 著
Benoit B. Mandelbrot

イェール大学数学科名誉教授(スターリング・プロフェッサー)、およびIBMトーマス・J・ワトソン研究所名誉フェロー。

フラクタル幾何学の創設者であり、なかでも最も有名なフラクタル図形であるマンデルブロ集合を用いて描かれた図は、数多くのポスターやTシャツ、レコード(CD)ジャケットなどに使われている。

また、アメリカ国内のみならず世界中からさまざまな賞を受賞しているが、1993年に受賞した物理学の世界で権威あるウォルフ賞では「私たちが自然を見る目を変えてくれた」と称えられた。

また、科学技術の進歩に大きく寄与した功績に対して2003年に日本国際賞を受賞している。1982年に刊行されたThe Fractal Geometry of Nature(広中平祐監訳『フラクタル幾何学』日経サイエンス)は現代の古典とされている。

本書は、マンデルブロが1960年代から取り組んできた金融問題について一般読者向けに書かれた初めてのものである。
ニューヨーク郊外のスカースデールに在住。

リチャード・L・ハドソン 著
Richard L. Hudson

『ウォールストリート・ジャーナル』(ヨーロッパ版)の記者・編集者を25年勤める。うち6年間は編集主幹。
1978年ハーバード大学卒業。1991年にはマサチューセッツ工科大学(MIT)の科学ジャーナルKnight Fellowを勤める。
ベルギー・ブリュッセルに在住。

高安秀樹 監訳者
たかやす・ひでき

名古屋大学大学院理学研究科修了、理学博士。
神戸大学理学部助手・助教授、東北大学大学院情報科学研究科教授を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、現在に至る。
専門は、フラクタル理論、経済物理学。

著書は、『フラクタル』(朝倉書店)、『経済物理学の発見』(光文社)他、翻訳書は、『鏡の伝説――カオス・フラクタル理論が自然を見る目を変えた』(共訳、ダイヤモンド社)他。

雨宮絵理 訳者
あめみや・えり

横浜生まれ。
岡村中学校での英語の先生が面白かったという、きわめて単純な理由で英語が好きになった。
翻訳書は、『一万の悲しみ』(DHC)。
文章力を鍛えるためと称してブログを毎日書き始めてから2年が経過し、現在も更新中。趣味はヨガとピラティス。

高安美佐子 訳者
たかやす・みさこ

神戸大学大学院自然科学研究科修了、博士(理学)。
東北大学大学院情報科学研究科特別研究員、慶應義塾大学理工学部助手、公立はこだて未来大学システム情報科学部助教授を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科准教授、現在に至る。
専門は、統計物理学、経済物理学、情報物理学。
著書は、『エコノフィジックス――市場に潜む物理法則』(共著、日本経済新聞社)他、翻訳書は、『バタフライパワー――カオスは創造性の源だ』(ダイヤモンド社)他。

冨永義治 訳者
とみなが・よしはる

東京大学農学部・農業経済学科卒業。
金融機関・投資顧問会社で債券・株式投資業務を経験した後、イェール大学・ビジネススクールに留学。
現在は、国際投資分析業務に加え、大学・高校受験、英検受験等の英語指導、趣味のゴルフに関する理論の翻訳業務にあたっている。

山崎和子 訳者
やまさき・かずこ

九州大学理学研究科物理学専攻博士課程修了、理学博士。
ガウス(株)設立、代表取締役を経て、東京情報大学講師、ボストン大学客員研究員、東京情報大学教授 現在に至る。
経済物理学、マルチエージェントシミュレーション、動的環境の中での適応を専門とする。
最近は、金融時系列の長期記憶、マルチフラクタル性、企業の成長率の分布、気象のネットワークなどを研究している。