本当の問題、優先的に解決すべき問題を大胆に提示。
今、なぜ理念が必要か。
これまでの日本の医療政策は、財政対策中心で、しかも時の政治情勢によって少なからず左右されてきたといわれる。ここ20年、頻繁に行われた制度改革は、日本の医療保障制度が抱えている問題を、根本から解決するものではなかった。
厚生労働省を非難するのは簡単であるが、厚生労働省も時々の政治情勢や世論を見極めながら、利益集団間の交渉・利害調整・合意形成を通じて、実務レベルで制度をなんとか改変しているというのが実態であろう。
しかし、私たちの生命を左右する医療保障のあり方が、政治情勢や利害調整によって歪められていいのか、絶対に守るべき何かが医療保障にはあるのではないか。
本書では、経済的な身の丈に合わない高福祉をやみくもに叫ぶのでもなく、市場万能主義で全てを解決しようとするのでもなく、「理念に基づく政策」を提案する。本書では、医療保障の根本的な理念が何かを考察し、その理念に沿った制度改革の方向を示すことである。
医療が社会的に提供される場合の根本的な目的は、まず、国民一人ひとりが主体的な人生設計を通じて幸福追求するための究極の前提である「生命」を保持し、次に、幸福追求の基盤としての身体的、精神的、経済的自立を支援することにある(二段階理念)。
この二段階の目的のために、医療保障制度が存在するのであるから、医療保障制度はこの二段階理念をできるだけ忠実に実現する必要がある。机上の空論ではなく、制度改革に活かせる理念を追求したのが本書である。
序 章 生命と自由を守る二段階理念(素朴な議論) 第I部 医療政策の歴史と理念 第II部 生命と自由を守る二段階理念論 第III部 理念が要請する医療保障制度改革
印南一路
いんなみ・いちろ
1982年東京大学法学部卒業。ハーバード大学行政大学院、公衆衛生大学院で医療政策を研究し、1992年シカゴ大学経営大学院でPh。D。取得(組織論)。シカゴ大学助教授を経て、現在、慶應義塾大学総合政策学部、政策・メディア大学院教授。一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構研究部長。
前著『「社会的入院」の研究――高齢者医療最大の病理にいかに対処すべきか』(東洋経済新報社、2009年)は、第52回日経・経済図書文化賞、第1回政策分析ネットワーク賞本賞を受賞した。専門は、医療政策と意思決定論・交渉論。
堀真奈美
ほり・まなみ
1994年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2002年同大学大学院政策・メディア研究科にて博士号取得。同年東海大学教養学部人間環境学科専任講師就任、2006年より准教授、現在にいたる。専門は医療・福祉政策、公共経営、社会保障の国際比較。
古城隆雄
こじょう・たかお
2003年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2011年慶應義塾大学大学院政策メディア研究科にて博士取得。現在、自治医科大学地域医療学センター地域医療学部門助教。専門は、医療政策、社会保障論。