第Ⅱ部 弁護と発展
本書(第14巻)の書名『一般理論とその後』は、第13巻(近刊)と共通である。第13巻は、その第Ⅰ部、サブタイトルは「準備」であり、全5章からなる。これに対して、第14巻は第Ⅱ部、サブタイトルは「弁護と発展」であり、全体の第6章「一般理論以後」を構成している。また、この巻には、『一般理論』の諸草稿と最終テキストの比較考証が付録として収録されている。
本巻は、そのサブタイトルが表しているように、『一般理論』刊行直後の1936年春から、その時代の主要な経済学者、すなわちホートリー、ロバートソン、ベヴァリッジ、ヒックス、ハロッドらとの間で、有効需要の原理、非自発的失業、資本の限界効率、流動性選好利子論、さらに経済統計と経済成長をめぐって議論を続けた論争の記録である。
とりわけケインズが説得に注力をしているのは『一般理論』の中核ともみなされる利子率の流動性選好理論で、最も多くの書簡がこの問題に関してやりとりされている。すなわちケインズは、将来に関する不確実な知識しかもたない人間の将来に対する不安の尺度として利子率を位置づけ、利子率理論を通じて、将来予想が経済活動に与える影響を経済分析に導入したのである。
最近では、前例のない世界的な金融緩和にもかかわらずデフレ傾向が続き、利子率が低水準に定着する状態が長期化している。これらの現象の解明には、ケインズが本書で詳しく説明している流動性選好理論を再検討することが重要なヒントになる可能性が含まれている。
2016年は、『一般理論』刊行後80年、ケインズ没後70年の年である。改めてケインズ理論の再検討、再評価が望まれる。