世界的に政治経済の摩擦が強まる中、2019年6月、G20大阪サミットにおいて採択された「大阪宣言」では、「自由・公平・無差別で透明性があり安定した貿易と投資環境を実現するよう努力する」とし、WTO改革への支持が盛り込まれた。一方で、米中貿易摩擦の問題解消に向けた道筋が見いだされなかったのも事実である。
このG20大阪サミットの議論を受けて実施されたのが、京都大学経済研究所シンポジウム「文明と国際経済の地平」であり、本書はこのシンポジウムの記録である。
本シンポジウムでは、国際経済と文明のあり方を問う根本的なテーマをめぐって、学界の第一人者である研究者や経済産業省の担当審議官による講演とともに、パネル討論が行われた。
本シンポジウムによせて、溝端佐登史氏(京都大学経済研究所長・教授)は、G20の仕組みが抱えるひずみを指摘。今後先進国と新興の成長国との間で貿易はもとより、技術や安全保障の分野にも及ぶ亀裂が深まる可能性を懸念した上で、いかにして社会の寛容性を取り戻すかを問う。
第一講演者の松尾剛彦氏(内閣府宇宙開発戦略推進事務局長)は、経済産業省大臣官房審議官としてG20の現場で活動した実体験をもとに、世界が直面する貿易上の課題とその背景、デジタリゼーションの進展とそれへの対応、WTOが抱える諸課題への対応などについて、G20の閣僚声明・首脳宣言を紹介しつつ解説する。
第二講演者の石川城太氏(一橋大学大学院経済学研究科教授)は、アカデミックなスタンスから「なぜ自由貿易が望ましいか」「どのような時にそう言えるのか」「どうしてうまくいかないことがありうるのか」といった議論を展開する。また、グローバリゼーション発展の方向性、WTOが抱える課題などについても言及する。
第三講演者の藤田昌久氏(京都大学経済研究所特任教授)は、「文明の進歩」を手がかりに、幅広い知識と視点からダイバーシフィケーションの重要性と、その活用について事例を交えつつ解説する。
パネル・ディスカッションにおいては、服部崇氏(京都大学経済研究所特定准教授)の司会のもと、講演者に溝端佐登史氏が加わり、活発な議論が行われた。