週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2020年6月27日号
2020年6月22日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】コロナ雇用崩壊

新型コロナウイルスによる感染拡大の第1の波はいったん収束。6月以降、感染状況は小康状態にあります。しかし、次の波への備えを怠ることはできません。社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保ち続ける「自粛経済」は、長期化を避けられません。
 
そんな中で懸念されるのが雇用への深刻な打撃。大企業の正社員は比較的守られているものの、中小企業の社員、非正規雇用者、学生アルバイトなど弱い立場の労働者にシワ寄せが及んでいます。一言でいえば、コロナ雇用危機とは「弱者に厳しい雇用危機」なのです。
 
4月の失業率上昇は0.1%にすぎず、雇用不安は広がっていないかのようにみえますが、実は嵐の前の静けさ。4月だけで420万人も増えた「休業者」が元の職場に戻れなかったとしたら……? 今後訪れる「大失業時代」を深掘りする特集をお届けします。

 

【スペシャルリポート】サムスンが「世襲決別宣言」 韓国財閥は変われるのか

韓国を代表する財閥・サムスングループのトップ、李在鎔副会長が「わが子に経営権を承継しない」と一族支配の終結を宣言、民主化以降抗してきた労組設立も容認しました。発言の真意はいかに。そして経営スタイルの転換はなるのでしょうか。

 

【スペシャルインタビュー】吉本興業HD会長・大﨑洋


コロナ禍で全劇場が閉鎖に追い込まれ、前期は大赤字となった吉本興業。グループを率いる大﨑会長はあくまで前向き、「契約書なし、出入り自由の新しい組織をつくりたい」と明かします。逆境を乗り切る「よしもと流」の秘策とは?

担当記者より

今号の表紙は、都内の至るところで目にするようになったウーバーイーツの配達員です。コロナによる外出自粛の影響から、飲食店のデリバリーを担う彼らの需要は急増しました。ところが、活況の様相を見せる一方で、実は配達員の収入は激減。ある配達員は「5月の収入はこれまでの1/3になった」とこぼします。休業中の飲食店関係者などが、次々とウーバーイーツの配達員として参入しており、需要が増える以上に、配達員が急増しているのです。

私は、2009年2月にも「雇用崩壊」という特集を担当しました。表紙に使った写真は、日比谷公園に集まった大勢の労働者たちです。リーマンショック後、製造業各社の急激な生産調整で職を失った大勢の労働者が、その年末からお正月を日比谷公園で過ごしました。当時「年越し派遣村」と呼ばれてさかんに報道されたため、その光景を覚えている方も多いのではないでしょうか。 

いま、数多くの人が職を失っているという点では、当時と同じか、あるいはより深刻かもしれません。それでもなぜかニュースを見聞きする機会が少ないと感じています。なぜでしょうか。いま職を失いつつある人の多くが、飲食・宿泊・サービス業などに就くパートやアルバイト、あるいはフリーランスといった、いわゆる“雇用弱者”だからです。

彼らの中にはまだ「失業」ではなく「休業」状態の人も多くいます。アルバイトでシフトに入っていなくても解雇はされていないので、実は本人も収入がないとはいえ失業しているという実感はないかもしれません。休業と失業の境目は実にあいまいなのです。

三密がいわれる中、一堂に会して悩みを共有することも、大勢が集まって訴えることもできません。労働相談は数多く寄せられていても、なかなか支援の手が行き届かないのが現実です。

そうした「声なき声」をいかに拾い上げるか。そして、ぽつりぽつりと挙がる事例からその裏に広がる複雑な背景にどれだけ迫れるか。それが、私たち記者の腕の見せどころだと思っています。

担当記者:風間 直樹(かざま なおき)
東洋経済 調査報道部長。1977年長野県生まれ。早稲田大学政経学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。14年8月から17年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、19年1月から調査報道部、同年10月より現職。著書に『雇用融解』(07年)、『融解連鎖』(10年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(13年)など。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
コロナ雇用崩壊

Part1  長期自粛の深すぎる爪痕
始まった大失業時代 異次元「コロナ切り」の衝撃
大規模な非正規切りが社会問題化 「リーマンの教訓」は生かされたか
企業をコロナ禍が直撃 自粛長期化が招いた惨状
労使のキーマンに聞く 雇用維持のために必要なことは?

Part2 戦いの最前線と届かぬ支援
感染リスクと待遇悪化に直面 医療・介護「コロナ過重労働」
子どもの安全は守れるのか 冷遇される非正規雇用の保育士
中堅医師が無給で働く大学病院 コロナ医療を担う「無給医」たち
順次拡大だが実効性には疑問 公的支援はどこまで使えるか
規制の強化があだに 進まぬ申請に社労士も困惑 
    
Part3 負担強いられる弱者たち
ウーバーイーツ配達員の収入が減ったワケ コロナで沸く物流業の裏側
リーマンショック時と様相異なる 弱者に厳しいコロナ雇用危機
エコノミストに聞く コロナ禍の雇用情勢はどうなるか
学費が支払えず中途退学も… 学生アルバイトの生活難
相部屋の大規模無低への入居を強要 歪んだ生活保護の現場
英会話講師と留学生が経験した悲劇 見捨てられる外国人労働者たち
仕事が細り環境は厳しい 山谷・寿町 日雇いの街のコロナ禍
日本以上に厳しい雇用崩壊 米国を襲うレイオフの嵐
「低賃金労働者への影響甚大」 トーマス・コーカン

スペシャルリポート
サムスンが「世襲決別宣言」 韓国財閥は変われるのか
経済運営では難局迎えた文在寅政権

スペシャルインタビュー
吉本興業ホールディングス 会長 大﨑 洋
「契約書なし、出入り自由。 新しい組織をつくりたい」


ニュース最前線
日産・内田社長が語った 過去の反省と再生プラン
「ディズニー+」ついに上陸 苦戦の日本市場攻略に本腰
六ヶ所再処理工場に合格証 航空機衝突に耐えられるか


連載
|経済を見る眼|コロナ後の世界への2つの問い|早川英男
|ニュースの核心|FRBが示した「 年末までゼロ金利」の影響度|中村 稔
|トップに直撃|ツイッタージャパン 社長 笹本 「裕中傷被害撲滅と言論の自由の両立を図る」
|フォーカス政治|10兆円予備費は選挙対策か 安倍政権打破へ野党結集を|山口二郎
|グローバルアイ|全世界を窮乏させる脱グローバル化|ケネス・ロゴフ
|INSIDE USA|コロナ後を見据える米国企業 リモートファーストが定着へ|瀧口範子
|中国動態|ポストコロナの消費刺激策 「デジタルクーポン」の効果|伊藤亜聖
|財新|カジノ収入9割減でマカオ経済が苦境に粉飾トップを追い詰める改正証券法
|マネー潮流|サステイナブルファイナンスのススメ|中空麻奈
|少数異見|ノーマル(標準)を求めないニューノーマルを
|知の技法 出世の作法|与党が過半数を維持した 沖縄県議会選挙を読み解く|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|持続可能な食の実践に壁 人間の合理性の限界|下川 哲
|人が集まる街 逃げる街|栃木県 那須郡|牧野知弘
|クラシック音楽最新事情|バッハを好きになる瞬間 リパッティ盤の思い出|田中 泰
|話題の本|『ワイルドサイドをほっつき歩け』の著者 ブレイディみかこに聞く ほか
|「英語雑談力」入門|autonomous|柴田真一
|ゴルフざんまい|コロナ禍における 日米ゴルフ界の違い|三田村昌鳳
|経済クロスワード|コロナ危機と雇用
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