週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2020年8月1日号
2020年7月27日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】脱炭素 待ったなし

地球温暖化の影響から自然災害が深刻化しています。そこに新型コロナウイルスが直撃。人々の移動が止まり石油需要が低迷し、多くのエネルギー企業が危機に瀕しています。

その一方で再生可能エネルギーシフトが世界主要国における経済復興政策の中心として浮上。日本でも非効率石炭火力発電所の停止など、踏み込んだ政策が動き出しました。

「脱炭素」に向けた規制はどこまで進んだのか。これから、どこまで強化されるのか。企業が意思決定を行ううえで不可欠な情報を盛り込んだ特集をお届けします。
 

【スペシャルリポート】トヨタ全車種「併売化」の衝撃 顧客争奪戦で優勝劣敗は必至


「お客さんから『値引き券』を見せられて絶句した」。名古屋市郊外のカローラ店店長はそう振り返ります。今年5月から始まった、トヨタ自動車販売店の全車種取り扱い。コロナ禍が続く国内販売の最前線で、いったい何が起きているのでしょうか。

担当記者より

亡くなった祖父は大手メーカーの工場に勤め、新幹線の製造に関わってきました。祖父は寝食を忘れて家でも図面に向き合っていたと今でも親族の語り草です。文系一直線の私には、長年日本のものづくりの第一線を担ってきた祖父のまっすぐな熱意は眩しく、どこか誇らしいものがありました。それゆえに、今回の特集ではあるテーマの取材を通して、非常にもどかしい思いを抱きました。

それは洋上風力発電。石油、石炭や原子力に代わる再生可能エネルギーの有力な選択肢として、欧州を中心に世界的に導入が進んでいますが、日本はこの分野で大きく出遅れています。1~2万点もの精密部品から構成される洋上風力の風車は、高い技術力の結晶ともいえますが、決して日本の技術力が世界に劣っているわけではありません。

実は、アジアで洋上風力をリードしているのは、新型コロナ対策でも注目を集めた台湾。日本より人口規模が小さく、電力需要も多くない台湾がなぜ先を行くのでしょうか。台湾はこれまで、すでに普及が進む欧州のやり方をじっくり勉強し、政策も整備するなど、国を挙げてこの産業を育ててきました。日本との違いはそこにあるようです。

日本では以前、陸上風力において、国が後押ししなかったために、産業がしぼんでしまった過去があります。そのため現在、風車を生産する日本企業はありません。部品メーカーも含めて十分な技術力は持っているにもかかわらず、です。

この7月、ようやく政府は重い腰を上げました。洋上風力発電の産業競争力強化に向けて官民協議会が立ち上がり、年内をメドに具体的な導入目標を示すとのこと。海外の風車メーカーが日本に製造拠点を設ければ、部品を生産する国内のメーカーを始め、日本のものづくりがようやく本領を発揮できるのではないかと期待しています。

担当記者:大塚 隆史 (おおつか たかふみ)
東洋経済記者。エネルギー系業界紙記者を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。担当は石油業界だが、電力関連の取材にも取り組む。好きなお酒は田中六五、鍋島。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
脱炭素 待ったなし

Part1  石油の終焉
世界で相次ぐ巨額損失と破綻 石油・ガス企業の瀬戸際
「技術覇権争いで 日本は存在感保て」 日本エネルギー経済研究所 専務理事・首席研究員 小山 堅
「エネルギー問題の世界的権威が警鐘 創造的破壊に備えよ」 IHSマークイット副会長 ダニエル・ヤーギン
コロナ禍と原油価格急落で経済が苦境に 不安定化する産油国政治
独仏はEV購入に100万円以上補助 政策頼みのEVシフト

Part2  脱炭素化への奮闘
重い腰を上げた日本政府 「非効率石炭」退場の衝撃
グリーンリカバリーに向け世界が動く コロナ禍を脱炭素で克服
不況対策に内燃機関車への補助金はない ドイツ人の強い環境意識
再エネ大量導入や森林破壊ゼロへ動き出す 日本企業・ESGの本気度
イオン、セブンーイレブンの挑戦 再エネ店舗は普及するか
ヤマト運輸 独社製のEVを首都圏で約100台稼働
「発電コストが下がれば “電気使い放題”も」 丸紅 電力・インフラグループCEO 横田善明
CO2大量排出産業の宿命 鉄鋼が挑む脱炭素の壁

Part3  前進する再エネ
ついに日本も導入目標を策定 動き始めた洋上風力
「日本政府の目標設定に期待」 MHIヴェスタス アジア太平洋地域 リージョナルマネジャー 山田正人
脱炭素の切り札となりうるか 水素とアンモニアに脚光
欧州が野心的な水素戦略に着手した 日本の30倍の導入目標を掲げ投資を促す
「現実味乏しい電源構成 実態に即した見直しを」  国際大学大学院教授 橘川武郎
強靱で環境性に優れたエネルギー 東電と東ガスが真っ向勝負
「水力と洋上風力を柱に 数兆円の投資を実施へ」 東京電力リニューアブルパワー社長 文挾誠一
「日本企業も脱炭素に本腰 電力に投資呼び込む必要」 日本経済団体連合会会長 中西宏明

スペシャルリポート
販売店の優勝劣敗は必至 トヨタ全車種「併売化」の衝撃
KTグループ会長兼社長・上野健彦氏を直撃 「店舗を3つに分類し、地域に深く入り込む」

ニュース最前線
「Go To」直前の迷走劇 忍び寄る二番底への懸念
無印の米子会社が経営破綻 露呈した拡大路線のひずみ
坪4万円台はるか遠くに 大阪オフィス市場の蹉跌


連載
|経済を見る眼|「身寄り問題」と包括的支援|藤森克彦
|ニュースの核心|トヨタ超え。テスラの世界一が示唆するもの|山田雄大
|トップに直撃|スクウェア・エニックス・ ホールディングス 社長 松田洋祐
|フォーカス政治|コロナ医療体制「日本モデル」の限界|山口二郎
|グローバルアイ|上向く各種経済指標 V字回復の望みはまだある|ジム・オニール
|INSIDE USA|留学生がトランプの標的に 大学を揺るがしたビザ混乱劇|瀧口範子
|中国動態|米中摩擦で改善する中国の事業環境|伊藤亜聖
|財新|「ライブコマース」過熱の裏で問題急増中国半導体の雄に先端設備調達リスク
|マネー潮流|潮流に逆らうバフェットの賭け|高井裕之
|少数異見|在宅ワークは現代の内職にすぎない
|知の技法 出世の作法|敵基地攻撃能力をめぐる 自民党の危険なアプローチ|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|過剰な「病床確保」は医療提供体制を弱める|伊藤由希子
|人が集まる街 逃げる街|島根県 出雲市|牧野知弘
|クラシック音楽最新事情|エンニオ・モリコーネ 映画音楽の巨匠、逝く|田中 泰
|話題の本|『トンネル誕生』の著者 山崎エリナに聞く ほか
|「英語雑談力」入門|walk a fine line|柴田真一
|経済クロスワード|エネルギー
|編集部から|
|読者の手紙 次号予告|

訂正情報

「週刊東洋経済2020年8月1日号」(7月27日発売)に、以下の間違いがありました。訂正してお詫び致します。
 
54ページ ■花王の「アタックZERO」の発売日
【誤】19年1月
 ↓
【正】19年4月

■イオンのオンサイトPPAの展開店舗
【誤】全国のイオンモール200店舗
 ↓
【正】全国のイオンモールなど200店舗
69ページ ■写真の説明文
【誤】今月1月に竣工した虎ノ門ヒルズビジネスタワー(右)の地下にはガスコージェネレーションシステムが設置されている(上)
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【正】今月1月に竣工した虎ノ門ヒルズビジネスタワー(右)の地下にある保安用のガスタービン発電機(上)