週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2020年10月31日号
2020年10月26日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】不動産 熱狂の裏側

コロナ禍の下で日本の不動産は二極化しています。リモートワークで需要が落ちるとみられがちなオフィスビルは、「割安」とみた海外マネーの流入で大活況に。在宅勤務の増加で「オフィス不要」となるかと思いきや、企業の本音は違うようです。

一方で商業施設やホテルは苦境に沈んでいます。現場の最新情報を基に不動産市場の先行きを展望しました。
 

【スペシャルリポート】「満足度No.1」は本当か 英語コーチング広告で紛糾


近年急拡大し伸び盛りの英語コーチング業界が広告・宣伝のあり方をめぐって真っ二つに割れています。大手プログリットの広告に対し、同業他社が猛反発。根拠薄弱な宣伝文句が飛び交う、ネット広告の構造問題に迫ります。

担当記者より

特集「不動産 熱狂の裏側」を担当した一井純です。記事ではさんざ「テレワークが広まる」と書き散らしてきましたが、かくいう私は未だに適応できていません。最大の障壁は、物件を見に現地まで足を運ぶことです。

新しくビルやマンションが建ったり、竣工済みの物件が話題に上がったりすると、だいたい現地に足を運んでいます。オフィスや商業施設ならテナント構成や混雑具合、マンションなら規模感やデザイン、周辺の住環境などをぼんやりと考えながら、物件の周囲をうろついています。

直接取材に繋がることは少ないのですが、知的好奇心をそそられることから、貴重な休日を潰してはついつい見に行ってしまいます。マンションの周りを何周もしたり、何も買わずに商業施設を端から端まで往復したり。職務質問を受けたことは、今のところありません。

緊急事態宣言解除後は、月に1~2回都内の商業施設の各フロアを巡り、テナントの入れ替わりを定点観測していました。渋谷スクランブルスクエアでは、今年6月時点で早くも1店舗が閉店しました。閉店を告げる張り紙に記載されてある番号に連絡をかけると、「コロナ禍による客数減で閉店を決断した」と担当者。ビルが開業したのは昨年11月。わずか7カ月の命でした。

京都へ出張に行った際は、レンタサイクルを借りて市内の宿泊施設を巡りました。鴨川沿いに立つあるゲストハウスの玄関には、長らく出入りがないためか無数の蜘蛛の巣が。二条城近くのゲストハウスの看板にはシールが貼られ、別のホテル名が記載されていました。調べてみると、開業直前に運営会社が撤退し、急きょ別の運営会社を手当てしたようです。

この原稿を書く数時間前にも、街を歩いていたら新築の店舗兼オフィスビルを見かけました。東京メトロのとある駅から徒歩2分。今年5月に竣工を迎えましたが、フロアの半分は現在も空室のまま。手元のテナント募集チラシには、契約条件について「詳細はお問い合わせください」とありますが、想定通りの賃料で成約することは難しいでしょう。

話を聞くだけなら電話やテレビ会議でも可能ですが、物件の表情はネットを眺めるだけでは伝わってきません。テレワーク全盛時代には、こうした仮想と現実の使い分けが一層重要になってくるのでしょう。私のような物好きは一握りかもしれませんが……。

担当記者:一井 純(いちい じゅん)
東洋経済記者。不動産業界担当。ビル、マンション、商業施設、物流施設、証券化、再開発など。趣味は写真と業務スーパー訪問。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集 
不動産 熱狂の裏側

実体経済総崩れ、それでも不動産は「買い」か?
INTERVIEW 不動産トップに直撃 「ニューノーマル」の処方箋

PART1 オフィス編
オフィスビルは「借り手優位」に テレワーク時代の新価値
ベンチャー31社に直撃 「オフィスは必要」が企業の本音
脚光浴びるシェアオフィス 「分散」需要に虎視眈々
オフィス移転・縮小、サテライト拠点活用 大手がオフィス改革へ号砲
移転費用は意外に重い オフィス縮小は本当に「得」なのか

PART2 不動産売買編
見直される日本市場 不動産、コロナは「買い場」
「京町家バブル」は破裂 もがくホテル、光明は差すか
銀座、上野…人気エリアの実情 「三重苦」商業地の叫び
景気軟調でも群がる投資家 物流施設、コロナで爆騰
銀行員が注視する「2023年問題」とは? 不動産融資の厳格化時期

PART3 コロナ禍の再開発編
巨大プロジェクトに暗雲 進むか、街の新陳代謝
先手を打ったのは小田急電鉄 ついに始まる 新宿再開発
リニア開業延期は逆に吉? 名古屋で交錯する楽観と悲観
ようやく動き出した再開発も及び腰 大阪、出遅れた好景気に冷や水
上場不動産会社を総まくり 「勝ち組」「負け組」ランキング

スペシャルリポート
「満足度No.1」は本当か 英語コーチング広告で紛糾

ニュース最前線
正規と非正規「格差訴訟」 判断が分かれた最高裁判決
相次ぐ口座手数料の導入 メガと地銀で異なる狙い
「核のゴミ」処分場に名乗り 北海道2町村の思惑と波紋


連載
|経済を見る眼|日本の長寿型経営は再評価されるか|延岡健太郎
|ニュースの核心|“対話をしない”外交で問題を解決できるか|福田恵介
|フォーカス政治|菅首相が挑む「霞が関との攻防戦」|塩田 潮
|グローバル・アイ|大統領選、戦慄の最悪シナリオ 米内戦の可能性は本当にある|アレックス・ヒントン
|INSIDE USA|保守化する最高裁 バイデン政権の障壁に|安井明彦
|中国動態|内需にエンジン切り替える中国経済|富坂 聰
|財新|テスラが中国で主力 モデル3値下げ「デジタル人民元」で消費券配布の背景
|マネー潮流|先進国が警戒するデジタル人民元構想|木内登英
|少数異見|専門知を軽視し、異論を排除する社会への懸念
|知の技法 出世の作法|ナゴルノ・カラバフ紛争は 大変動をもたらす可能性も|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|途上国の都市化は 先進国とどう違うのか|松浦隆之介
|リーダーのためのDX 超入門|(新連載)「デジタル庁」から始まる行政DXの肝|山本康正
|トップに直撃|日本製紙 社長 野沢 徹
|人が集まる街 逃げる街|神奈川県 茅ヶ崎市|牧野知弘
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