特集「岐路に立つ東南アジア」を担当した劉彦甫です。
2025年は戦後80年という節目です。東南アジアはかつて日本が侵略した地域でもありますが、80年の間に日本に対する感情は「恨み」から「信頼」に変わっています。戦後日本が他国と付き合う上でも重要な経験を得た地域と言えます。
そんな東南アジアですが、この数年は再び国際政治と経済に翻弄されることが増えています。米中対立の狭間に立たされ、各国は難しいかじ取りを迫られているのです。
ただ、それは苦難だけではありません。東南アジア諸国はチャンスとリスクの両方を感じ取り、果敢に地政学上の課題にチャレンジしています。
たとえば、米中対立によって、日米欧の企業では中国のほかにも拠点を増やそうとする動きが広がっています。マレーシアはもともと電子機器産業が集積していた強みを生かし、半導体などハイテク産業をさらに高度化しようと積極的に政策を出しています。長く中所得国から抜け出せなかった同国ですが、ハイテク産業の誘致をテコにこのままいけば数年で高所得国入りを果たす見込みです。
一方で米中対立によるサプライチェーン再編でこの数年大きな恩恵を受けていたベトナムは、逆にアメリカから睨まれ、高い関税率を課せられそうになるなど苦労も増えました。
また興味深いのは人口が域内で最も多いインドネシアです。強い内需を武器に外資系企業に強気に出ています。アップルはiPhone16の販売が一時制限され、インドネシアに製造拠点を作ることを表明して制限が解除されました。強硬な姿勢で経済発展を維持できるか注視されます。
各国が自身の強みと弱みを自覚してさらなる成長を目指す中、現地の経済・生活水準も都市圏では先進国並みに発展しています。躍動する東南アジア各国の実態を具体的な企業の事例や現地ルポなどミクロ視点と国際政治経済のマクロ視点の双方から考えられるように特集を組んでいます。読者の皆様にお役立ちできれば幸いです。
担当記者:劉 彦甫(りゅう いぇんふ)
台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。専攻はアジア国際政治経済、東アジアジャーナリズム。現在は電機大手や電子部品、精密機械、医療機器、宇宙業界を担当。台湾や香港を中心に東アジアの動きも追いかける。趣味はピアノや旅行。