週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2020年12月19日号
2020年12月14日 発売
定価 730円(税込)
JAN:4910201331208

【第1特集】製薬 大リストラ

MR(医薬情報担当者)は製薬企業の高収入職種として知られますが、現状は医師への接待ざんまいといった往年のイメージからは程遠いものです。営業のデジタル化や製薬企業の注力領域の転換によって、この数年は「早期退職ドミノ」が広がっています。

さらに、コロナ禍での医療機関訪問規制で「不要論」「過剰論」が加速。MRの将来はどうなるのか、現場の声も拾い上げその将来を探ります。
 

【第2特集】コンビニの袋小路


過剰出店や人件費高騰など、課題は山積。時代に合わせた“変化対応”が本部と加盟店に求められている。

担当記者より

特集「製薬 大リストラ」を担当した石阪友貴です。担当の病院やクリニックに通い、自社製品を使ってもらうために医師や薬剤師に営業をかけるMR(医薬情報担当者)。薬価引き下げなどで製薬会社の経営が圧迫されるのに伴い、ここ数年、大リストラの嵐が吹き荒れています。そんな中で訪れた今回のコロナ禍。医療機関への立ち入りが制限され、MRへの風当たりは一層強くなりました。

今回取材にご協力いただいたあるMRが教えてくれた話です。勤務先で今年3月、MRに対して「担当医師のメールアドレスを収集するように」と号令がかかりました。彼は、病院に返信用ハガキを同封した手紙を送って、なんとかお目当ての医師のアドレスを聞き出そうとしたのですが、そう簡単に返信は来ません。

同僚の中には、自身で架空のメールアドレスを作って件数を積み上げている人もいたとのこと。医師の側でも、この手の問い合わせが増えたことに煩わしさを感じて、あえて“捨てアド”を作って教えるといったケースがあったようです。結果できあがったのは、まったく役に立たない架空アドレスのリストだった、と。

MRは「担当医師に会って話をした回数」が重要な評価項目の一つ。メールや電話番号を知っておくことにさほど大きな必要性は感じていなかったといいます。それが、コロナ禍で一変しました。MRの仕事は激減。別のMRは「1日の業務が、メールを2通送っただけという日も多かった」と打ち明けてくれましたが、全国に約5.7万人とも言われるMRのほとんどが同じような状況に陥ったのです。

彼らの焦り、不安、危機感とはいかなるものでしょうか。逆風にさらされているMRの声とともに、製薬業界を取り巻く現状を追いました。

担当記者:石阪 友貴(いしざか ともき)
東洋経済記者。医薬品業界を担当。早稲田大学政治経済学部卒。2017年、東洋経済新報社に入社してから食品・飲料業界を担当。ラグビーと格闘技、ツーリング、ビールが好き。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

第1特集
コロナで加速するMR淘汰 製薬大リストラ

厳しさ増す製薬業界 MRの受難

Part 1  苦悩するMR
コロナ禍で根強い「過剰論」も再燃 止まらないリストラの嵐
「MRにプラスの変化もある」 MR認定センター事務局長 近澤洋平 
[ 匿名誌上座談会 ] 激変した営業現場 MRの本音炸裂
エムスリーが仕掛ける大改革 「MR君」のすごい営業力
知られざる時価総額6兆円企業 快進撃エムスリーを大解剖
医療機関に行けずに営業は一変 ニューノーマルの営業手法
MRに明日はあるのか 生き残るMR、淘汰されるMR
リストラに聖域なし 研究職も例外じゃない!
ヤメMRは新天地をどう見つける 変わるMRの転職事情

Part 2 製薬企業の苦闘
シャイアー買収の成果は? 武田薬品 6兆円買収の通信簿
「国内投資を縮小するという発想はない」 武田薬品工業取締役 岩﨑真人
独自技術で大型薬を開発 中外製薬 「時価総額1位」の必然
「創薬研究に資源を集中する」 中外製薬会長兼CEO 小坂達朗
自社開発の大型新薬に期待 第一三共 がん新薬で反転攻勢
「ADCの"次"を出したい」 第一三共社長兼CEO 眞鍋 淳
想定外の治験中断も アステラス 「次の柱」が足りない
予想覆し専門家が承認に「ノー」 エーザイ認知症薬「風前の灯」

第2特集
打開策がない本部に加盟店は限界 コンビニの袋小路
値引きで消費者にはお得だが… 浸透しない「見切り販売」
「自腹営業」も制度が原因か 人事評価に翻弄される本部社員
「連絡事項を伝えるだけ」の社員も 大量出店が能力不足の経営指導員を生んだ

第3特集
議決権不正集計で露呈 投資家軽視の株主総会にNO
ご意見番の「喝!」
「法改正で株主の権限を強化せよ」  マネックス グループ社長 松本 大
「“締め出し型”の発想が問題だ」 フィディリティ投信 ヘッド・オブ・ エンゲージメント 三瓶裕喜
「物言う株主に堂々と向き合え」 弁護士 中島 茂
「機関投資家の直接行使を増やせ」 東京大学教授 田中 亘

スペシャルリポート
コロナ禍便乗の不正相次ぐ 「持続化給付金」 何が問題か
給付金の「法律論」を考える 平時から「給付金法」の議論を

特別インタビュー 
香港民主派の象徴 ジミー・ライ 
拘束直前の肉声 「香港のことを忘れないでほしい」

対談
政治経済評論家 古賀茂明×政策工房社長 原 英史
元改革派官僚がもの申す 間違いだらけの改革論議

ニュース最前線
大手3社の中で独り負け ドコモが激安料金で逆襲
東証・JPXに行政処分 システム障害生んだ「真因」
際立つ三越伊勢丹の大赤字 百貨店一本足打法があだに

 
連載  
|経済を見る眼|「日本問題」をめぐる数々の誤解|早川英男
|ニュースの核心|「ガソリン車禁止」に隠された真の焦点|山田雄大
|フォーカス政治|皇室と政権が適度な関係を保つには|牧原 出
|グローバル・アイ|人類を危機に陥れる米中支配 求められる4極の世界秩序|ダロン・ アセモグル
|INSIDE USA|学歴による格差は当然か? 米知識人からの警告|会田弘継
|中国動態|祝電にのぞく米中関係再構築の思惑|小原凡司
|財新|過当競争に苦しむ中国の半導体業界インドが中国製アプリ禁止を再拡大
|マネー潮流|2021年の投資は長短のバランスがカギ|高井裕之
|少数異見|自治体が考えるべき「戦略的な終い方」
|知の技法 出世の作法|沖縄県初の芥川賞作家 大城立裕氏に学んだこと・下|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|過剰設備の処理に対する 政策的な介入は妥当か|岡崎哲二
|リーダーのためのDX超入門|製造業の未来を脅かす「IoT」の大誤解|山本康正
|人が集まる街 逃げる街|神奈川県中郡 大磯町|牧野知弘
|クラシック音楽最新事情|バッハ演奏団体が 『第九』に挑む理由|田中 泰
|話題の本|『ロッキード疑獄 』著者 春名幹男氏に聞く ほか
|経済クロスワード|MRと製薬業界
|「英語雑談力」入門|benefit from ~|柴田真一 
|ゴルフざんまい|初の無観客による 秋のマスターズ|三田村昌鳳
|編集部から|
|読者の手紙 次号予告|

訂正情報

「週刊東洋経済2020年12月19日号」(12月14日発売)に、以下の間違いがありました。訂正してお詫び致します。
 
19ページ ■大手3社の中で独り負け、ドコモが激安料金で逆襲

ドコモの通信契約数について
【誤】減少幅は拡大しており、直近の7~9月期は約58万件減った
 ↓
【正】直近の7~9月期は20.9万件減った
41ページ ■「コロナ禍で根強い『過剰論』も再燃 止まらないリストラの嵐」の記事

【誤】多くの人員を割いていた生活習慣病の薬はすでに特許が切れているものも多く、価格が安い後発品も市場には出ている。
 ↓
【正】多くの人員を割いていた生活習慣病の薬は特許切れが近いものも多い。
57ページ ■「シャイアー買収の成果は? 武田薬品6兆円買収の通信簿」の記事

【誤】旧シャイアー品の落ち込みを武田の既存製品の伸びでカバーする計画だったが、武田は国内の工場で品質問題を起こす。
 ↓
【正】さらに、武田は国内の工場で品質問題を起こす。