週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2021年6月26日号
2021年6月21日 発売
定価 730円(税込)
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【第1特集】全解明 経済安保

米中対立は政治、軍事にとどまりません。経済的手段を通じて自国の国益を守る「経済安全保障」をめぐる争いは企業を巻き込んで熾烈化しています。東芝のガバナンス問題、LINEの個人情報データの取り扱いといったホットニュースにも密接に関係しています。

ただ、過剰に意識すると企業活動が阻害されたり、経済政策が歪められたりするリスクもあります。経営の必須知識になってきた経済安保を基本から最新情勢まで徹底解説します。
 

【第2特集】ヤフーニュースの憂鬱


日本最大のニュースプラットフォームが岐路に立っている。その「公共性」をめぐり、沸騰する議論を追った。

担当記者より

特集「全解明 経済安保」を担当した二階堂遼馬です。「経済安全保障」と聞いて、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?自分の会社や経営にはまったく関係ないこと、と思われるかもしれません。しかし、国家の安全保障を経済の面から実現するこの政策は、これから多くの日本企業の頭を悩ませることになりそうです。

なぜでしょうか。背景にあるのは、米国と中国の激しい対立関係です。自国の産業強化に邁進する中国は、5Gネットワークや産業用ロボットなどの国産比率を高め、世界の製造強国の仲間入りを目指しています。これに警戒しているのが米国です。中国の通信機器最大手・ファーウェイなどに対し、軍事に転用される安全保障上のリスクが高いなどとして、米国製品の禁輸措置を講じています。

昨年8月からは、米国外からでも米国の技術・ソフトウエアを用いた製品の輸出は米国の許可制となました。これによって、ソニーやキオクシアといった会社が業績で打撃を受けています。経済安保と日本企業の関係について、経済同友会副代表幹事でJSR名誉会長の小柴満信氏は、「経済力や先端技術が外交交渉の武器になっている。日本の経営者は安全保障に無関心であってはならない」と警鐘を鳴らしています。

ただ、経済安保への対応には、民間企業に戸惑いの声があるのも事実です。これまで巨大市場だった中国向けビジネスを根幹から見直すのは容易ではありません。日本政府や自民党は国産のサプライチェーン構築を求めていますが、経済合理性にかなうかは未知数です。製造業だけではなく、LINEにおける中・韓でのデータ管理不備を機に、企業が保有するデータも「国内に移管せよ」というかけ声が上がっています。これまで企業にとって「最適」と考えられていたビジネスの前提が大きく覆されようとしています。

日本の雑誌で経済安保を取り上げるものは、これまで「中国がいかに危ないか」といった、いわばイデオロギー的なものが多かったように思えます。その意味で今号は、民間企業の目線でビジネスパーソンや経営者がどう経済安保に向き合えばいいのか、という切り口を中心に据えた、まだ数少ない特集かもしれません。安全保障とビジネスの関係について、考えるきっかけになってもらえたら幸いです。

担当記者:二階堂 遼馬(にかいどう りょうま)
2008年東洋経済新報社入社。20年1月から休職し、米大学機関に所属。21年5月職場に復帰し、週刊東洋経済編集部副編集長。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

第1特集
全解明 経済安保

米中デカップリングと日本企業 世界を覆う経済安保
先端技術で米中が火花
中国が強い関心を持つ先端技術

[インタビュー]経済安保 どう取り組む?
自民党 衆議院議員 甘利 明 「中国に情報を抜かれる前に企業は備えを」
多摩大学 学長 寺島実郎 「デカップリング論に惑わされてはいけない」

Part1 最先端技術バトル
各社のシナリオを徹底分析 「板挟み」日本企業の隘路 
 電機・半導体/自動車/化学/通信/アパレル/資源
三菱電機、デンソー、パナ 専門部署設置でリスク管理

[インタビュー]企業幹部が抱く危機感
経済同友会副代表幹事 小柴満信 「経営者は感度を上げるべきだ」
三菱電機常務執行役 日下部 聡 「自由貿易と別のルールが出てきた」

低下した日本の存在感 挽回可能か 半導体支援の落とし穴
日本のものづくりが止まる レアアース入手難の深刻
中国での業務委託リスクが露呈 信頼失ったLINEの教訓
テンセント出資で米国も強い懸念 外為法すり抜けた楽天の責任
積水化学、ソフトバンクなどで社員逮捕 産業スパイにご用心
人権リスクが直撃 八方ふさがりのミャンマー進出企業
[インタビュー]京都大学准教授 中西嘉宏「妥協しない軍事政権。制裁も無力」

Part2 米中新冷戦と日本
自民党提言の意義と疑問 経済安保なら何でもありか
[インタビュー]首相補佐官(経済・外交)阿達雅志 「経済の実態を踏まえた議論を」
経済安保に政局のにおい 半導体議連は“二階包囲網”
バイデン政権でも強硬路線 米外交「中国カード」の切り方
[インタビュー]米スワースモア大学教授 ドミニク・ティアニー 「中国は超党派合意の唯一のイシュー」
[インタビュー]元内閣官房副長官補 兼原信克 「民生技術と軍事は不可分の関係だ」
米大学で浸透する自主管理 「外国の影響」にどう向き合う
英国は投資規制を強化 安保と経済の二兎を追う

第2特集
「国民的ポータル」はどこへ向かう ヤフーニュースの憂鬱
[インタビュー] 個人投資家、作家 山本一郎
「記事削除だけでない あらゆる基準が不明確」
[インタビュー]ヤフー メディア統括本部 中村 塁/ヤフー 政策企画統括本部 吉田 奨
「信頼性の担保が最重要 “三方よし”のサービスに」

ニュース最前線
東芝にちらつく経産省の影 ガバナンスを取り戻せるか
ヤマダが完全子会社化へ 大塚家具の多難な末路
中京銀行が異例の人員削減 東海の地銀再編に発展か


連載  
|経済を見る眼|脱炭素を加速させる金融の力|早川英男
|ニュースの核心|東京外環トンネル陥没事故の理不尽|岡田広行
|発見!成長企業|ココナラ
|会社四季報 注目決算|今号の4社
|トップに直撃|藍澤証券 社長  藍澤卓弥
|フォーカス政治|裁判員制度とアベノミクスの共通点|軽部謙介
|中国動態|官民を総動員、怒濤のワクチン接種|田中信彦
|財新 Opinion&News|中国の高齢化は「三人っ子政策」で防げるのか
|グローバル・アイ|サイバー犯罪が動かぬ証拠 暗号通貨は地下経済の道具だ|ケネス・ロゴフ
|INSIDE USA|フクヤマとフーコーとコロナ 自由と規制で逆転する右と左|会田弘継
|FROM The New York Times|世界のウェブサイトがダウン 表示速度、高速化の皮肉
|マネー潮流|高まる化石燃料の争奪戦リスク|高井裕之
|少数異見|ワクチン接種の「丸投げ」で得られたもの
|知の技法 出世の作法|平和条約交渉を続けるとしたプーチン大統領の真意は|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|渋沢栄一、三菱に挑む 日本郵船誕生前夜の教訓|横山和輝
|話題の本|『広重の浮世絵と地形で読み解く江戸の秘密』著者 竹村公太郎氏に聞く ほか
|経済クロスワード|米中衝突と企業リスク
|人が集まる街 逃げる街|神奈川県 相模原市|牧野知弘
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