週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2021年8月28日号
2021年8月23日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】物流頂上決戦


ネット通販の巨人、アマゾンで日本法人トップが突如退任したというニュースが物流業界を震撼させています。2017年に起きた宅配料金の値上げラッシュを起点にアマゾンが始めた「物流自前化」の動きがさらに加速するとみられ、ヤマト運輸など宅配大手は対応を急いでいます。

日本でのシェアを高めるアマゾンに対抗すべく、イオンやセブン&アイなどもようやく物流強化に注力し始めました。大変動の最終局面を迎えた物流業界の陣取り合戦を描き出します。

担当記者より

2017年、ドライバーの労働環境改善を名目に宅配最大手のヤマト運輸が発表した方針は、多くの関係者に衝撃を与えました。人手不足とコスト増大を理由に、荷受け量の抑制と運賃の値上げを表明したのです。日本郵便や佐川急便もこの動きに追随し、業界では「宅配クライシス」や「ヤマトショック」と呼ばれています。

それから4年。物流業界の様相はまたがらりと変化しています。台風の目となっているのは、アマゾンです。今では「ユニクロ」のファーストリテイリングよりも売り上げ規模の大きいアマゾンジャパンは、宅配クライシスを受けて、自分たちで物流網を構築し始めています。よりコストの安い地域の中小運送業者に委託したり、個人事業主に直接業務委託したりしているのです。

ヤマトにとっての最大顧客は昔も今も、アマゾンと言われています。ただアマゾンの物流自前化を受けてヤマトは焦燥感を覚え、一部エリアで逆に「値下げ」交渉をしていることがわかっています。コロナ禍で親会社ヤマトホールディングスの業績は絶好調ですが、水面下では両社の関係には構造的な変化が起きているのです。

宅配クライシスは、アマゾン以外の小売り各社も方針転換を迫りました。セブン‐イレブン・ジャパンはセイノーホールディングスと提携し、セイノーの子会社がセブンの加盟店に配達員を派遣。ライフコーポレーションも、大阪本社の物流企業・間口ホールディングスグループとネットスーパー専用の新会社を設立しています。イオンやイトーヨーカ堂は新たな物流拠点を解説し、倉庫作業の自動化を推進。いずれも物流コストの値上がりを受け、効率的なオペレーションの構築に向かっています。

裏を返せば、これまで大手の物流会社が担ってきた庫内作業の支援や配送のラストワンマイルがどんどん小売業の中に含まれてくることを意味します。クライシスが起きた当時には、まったく予見できなかったことかもしれません。異次元の競争に突入した物流業界。今回の取材を通じ、この先どんどん提携あるいは合併といった動きが活発していくだろうということを感じました。

担当記者:二階堂 遼馬(にかいどう りょうま)
2008年東洋経済新報社入社。20年1月から休職し、米大学機関に所属。21年5月職場に復帰し、週刊東洋経済編集部副編集長。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
物流頂上決戦
[ prologue ]アマゾン日本法人 トップ退任の波紋

PART1  超活況の明暗
「宅配クライシス」は遠い昔 需要爆発で変わる勢力図
アマゾンが火をつけた物流の陣取り合戦
"自前物流"を進める小売業界
背水のヤマト・ヤフー連合 物流代行でがっぷり四つ
[インタビュー]ヤマト・ヤフーの幹部を直撃
「ラストワンマイルだけじゃない」ヤマト運輸 常務執行役員EC事業担当 阿部珠樹
「とにかく早く届けることが大事」ヤフー コマースカンパニー執行役員 ショッピング統括本部長 畑中 基
7月に合弁会社がスタート 視界不良の楽天・日本郵便
アマゾン特需に沸くが… 委託業者の期待と不安

PART2  知られざる配送の現場
過剰な荷物、不安定な立場 深まるドライバーの苦境
単価下がり時給はコンビニ以下 ウーバーイーツ配達員の過酷
次世代通信でいすゞ、日野がタッグ 運送業界のドライバー不足に対応
多様化する受け取り方法 変わり始めた宅配の常識
セブンとローソン・ファミマで二分 ネットコンビニの最前線
米国で爆発的に普及 買い物代行サービスの可能性

PART3  物流「大投資時代」
勝負の地はネットスーパー 打倒アマゾン最終決戦
[インタビュー]イオンネクスト準備 代表取締役 バラット・ルパーニ
「イオン『EC1兆円計画』への布石 英オカド流の新拠点に自信あり」
1品から送料無料で注文可能 独自の生鮮ECに挑むクックパッド
ユニクロ、ニトリ、アスクルが進める 小売業の「物流自前化」
スピードだけじゃない新機軸 配送品質で戦う家電量販
[インタビュー]ヨドバシカメラ社長 藤沢和則
「将来的にEC比率5割を目指す」
宅配を使わないワークマン 店舗受け取りに振り切る
[インタビュー]ワークマン専務取締役 土屋哲雄
「来店でファンになってもらう」
巨大物流施設の開発相次ぐ なだれ込む世界のマネー

[ epilogue ]「アマゾン化」した世界に待っているもの

産業リポート
手を組んだ日野といすゞ 商用車にも電動化の波
[インタビュー] 
日野自動車会長 下 義生
「CASE時代の協調と競争 その線引きは明確だ」
いすゞ自動車社長 片山正則
「産業が根底から変わる 1社の力では生き残れない」

ニュース最前線
業績回復でも混乱の東芝 新社長選出へ続く手探り
中国リスクでも投資は拡大 ソフトバンクGの自信
食品の強化で第二の創業へ 無印「3兆円構想」の現実味


連載  
|経済を見る眼|「外部性」で考える感染症の経済学|早川英男
|ニュースの核心|中銀デジタル通貨の導入目的は何か|野村明弘
|発見!成長企業|レノバ
|会社四季報 注目決算|今号の4社
|トップに直撃|西武ホールディングス 社長 後藤高志
|フォーカス政治|今こそ与野党「大連立政権」検討を|山口二郎
|中国動態|教育産業への介入、他業界に波及か|伊藤亜聖
|財新 Opinion&News|新型コロナとの共存を議論し始めた中国
|グローバル・アイ|間違いだらけの「冷戦」礼賛 米中対立の実害は大きい|ダロン・アセモグル
|Inside USA|日本を巻き込んで進む バイデンのサイバー攻撃対策|ジェームズ・ショフ
|FROM The New York Times|苦戦続く米ネットメディア 広告モデルは転換期に
|マネー潮流|住宅価格高騰に悩む各国中央銀行|木内登英
|少数異見|世界とずれる日本。外からの視点を取り戻せ
|知の技法 出世の作法|タリバンのアフガニスタン 国際社会の3つのシナリオ|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|「個別化価格」は企業合併の影響を和らげる|高橋悠也
|話題の本|『海獣学者、クジラを解剖する。海の哺乳類の死体が教えてくれること』 著者 田島木綿子氏に聞く ほか
|経済クロスワード|物流
|人が集まる街 逃げる街|新潟県 長岡市|牧野知弘
|編集部から|
|先週号の読まれた記事 次号予告|

訂正情報

「週刊東洋経済2021年8月28日号」(8月23日発売)に、以下の間違いがありました。訂正してお詫び致します。
 
48ページ ■ヤマト運輸常務執行役員 阿部珠樹氏の経歴の一部

【誤】東京支店長を経て、2019年4月に常務執行役員(東京支社長)に。
 ↓
【正】東京支社長を経て、2019年4月に常務執行役員(東京支社長)に。