週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2021年12月11日号
2021年12月6日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】定年格差


サントリーHDの新浪剛史社長が提唱した“45歳定年制”は、「要はリストラではないか」と猛反発を受けました。しかし実際には70歳までの雇用機会確保が企業の努力義務とされるなど、流れは定年延長に傾いています。今や65~69歳の高齢者の5割近くが働き、その過半はパート・アルバイトです。

職業人生が長期化する中で、老後を豊かなものにするためにはどのようなキャリア設計をするべきか。「定年」という大きなエポックを軸に、シニアとその予備軍の置かれている現実を徹底取材しました。

担当記者より

特集「定年格差」を担当した大野和幸です。今年4月から高年齢者雇用安定法が改正され、企業は「70歳までの就業機会の確保が努力義務」となりました。あくまで定年自体は60歳に置く企業が多く、定年以降は嘱託などの肩書きで雇う企業が多いのが実態です。それでも実際に自分の周囲にいる方は、60代なら全然現役、70代でもまだまだ働ける印象が強い。例えば、誌面にも登場する“高齢社”は、シニア専門の派遣会社。まさに「高齢者」を企業に派遣する会社で、登録している方の平均年齢は71.1歳、最も多いのは73歳です。

2000年に東京ガスのOBが設立した会社ですが、なかなか仕事内容が振るっています。新築のマンションを建てると、必ずガス機器の点検がありますが、どうしても作業は土日に集中する。東京ガスの現役社員を休日出勤させるのは調整が大変な一方、OBは暇で一日じゅう時間をもてあましていたりする。ここに両者の利害が一致するわけです。

ほかにもあります。ガス会社の制服は、テロ対策などもあって持ち帰り禁止をするほど保管が厳重なのですが、これを専門にクリーニングする仕事も。ガス関連の仕事は、国家資格のガス技術主任者や東京ガスの認定資格が必要なこともあり、そもそも外注するのが難しいのですが、それを東京ガスのOBやOGがまとめて請け負っているのです。

そんな高齢社もいまや、東京ガス以外の仕事が4割にまで高まりました。その中には、家電メーカーが顧客の自宅へ修理に行っている間、停めた車が駐車違反とならないよう、助手席で“待機”している仕事もあります。まさにかゆいところに手が届くような仕事と言えるでしょう。さまざまなニーズを拾い上げる同社の姿勢にも頭が下がります。

今後もこの国の高齢化は進み続けます。人手不足があらゆる産業で日常となる中、「働くシニア」をどう生かすかは、大げさでなく、日本経済の命運を握っていると言えるのではないでしょうか。

担当記者:大野 和幸(おおの かずゆき)
東洋経済新報社入社後、精密、コンピュータ、通信、銀行、自動車、エネルギーなどの業界を担当。2014年7月からニュース編集部編集長。東洋経済オンライン編集部長、週刊東洋経済マンスリーエディション編集長を経て、現職。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
定年格差
[ 図解 ] 止まらない高齢化 働くシニアの「今」
[ 退職金 ] 手取りで選ぶか安定優先か 一時金と年金、どちらが有利?
[ 役職定年] 肩書が外れ給料も下がる日 50代後半、人生先が見えてきた

働き続けるのもいいけど、年金はどうなる? 
受給開始年齢に見る 年金増減率シミュレーション 井戸美枝

PART1
「70歳まで現役」時代が来る
大手正社員を辞めても道は開ける 元エリートたちの「奮闘」
[ ケーススタディー① ] 東京海上日動火災保険 社内公募にチャレンジ 25年の経験が生きる
[ ケーススタディー② ] 電通 鹿児島の山間部に移住 安心して飛び出せた
[ ケーススタディー③ ] パソナグループ 元アパレルや元教員も 他業界からも受け入れる
[ トップインタビュー ] YKK会長 猿丸雅之 「定年廃止は公正が基本 決して甘い制度ではない」

[ Q&A/ここが変わった! ] 改正高年齢者雇用安定法
「定年が来た!」7000人アンケート
  7000人のミドル・シニアが語る 「もはやシニアと実感するとき」
逃げ遅れた人、逃げ切れた人 第二の人生でついた明暗

[ 誌上討論 ] キャリアの見直しか、強者の論理か 早期定年制度の導入は是か非か
 [ 容認派 ] 東京大学大学院経済学研究科教授 柳川範之 「40歳でキャリアを見直せ」
 [ 懐疑派 ] 明治大学公共政策大学院専任教授 岡部 卓 「早期定年は強者の論理だ」
[ インタビュー ] 賢人に聞く 丹羽宇一郎 「定年って何だ! 生き方は年と関係ない」

PART2
脱・“働かないおじさん”

紙1枚で「職務」に値段がつく ジョブ型導入が始まった
[ ケーススタディー① ] 日立製作所 10年前からの取り組み 労組まで巻き込んで議論
[ ケーススタディー② ] 富士通  課長決定はポスティング 重み増す人事部の役割
職務以外はやらなくていい? ジョブ型で問われる管理職のいす

[ 異論反論 ] 社員の成長のために可視化せよ 日本版ジョブ型雇用が必要だ ENTOENTO代表 松本順市
FIREのように派手でなくていい 失敗しないシニア起業術 上水樽文明
キャリア形成か、「好きを仕事に」か 中高年の副業と学び直し 藤木俊明
“車内で待機”から「スーパー顧問」まで 65歳からのハローワーク
同一労働同一賃金の衝撃度 厚遇正社員の手当はなくなる?
[ インタビュー ] 社長に直撃 ノジマ社長 野島廣司 「80歳超えても働ける会社に」

産業リポート
稼ぐ集英社と消える書店 出版界であわらになる格差
日本出版販売社長 奥村景二 「手を取り合って出版流通改革を進める」
有隣堂社長 松信健太郎 「出版ビジネスはもう限界 書店の役割を再定義せよ」

ニュース最前線
金融庁が行政処分で指摘 みずほのガバナンス不全
今度は裁判所が「待った!」 泥沼の関西スーパー争奪戦
銀座のビル賃料が沸騰 中心と外縁で進む二極化


連載  
|経済を見る眼|プッシュ型の現金給付は実現できる|佐藤主光
|ニュースの核心|企業物価の上昇で日本もインフレに突入するか|山田雄大
|発見!成長企業|デジタリフト
|会社四季報 注目決算|今号の4社
|トップに直撃|リンクアンドモチベーション 会長 小笹芳央
|フォーカス政治|コロナ敗戦の責任と野党の選挙敗北|山口二郎
|中国動態|「脱炭素」と「成長」の二兎を追う中国|福本智之
|財新 Opinion&News|中国のTPP参加は「WTO加盟」を手本にせよ
|グローバル・アイ|脱炭素を挫くエネルギー危機 克服のカギは「世界燃料備蓄」|ジム・オニール
|Inside USA|米韓接近で広がる内外の溝 朝鮮戦争「終戦宣言」の現実味|ジェームズ・ショフ
|FROM The New York Times|ヘアカーラーを着け堂々外出 韓国若年女性が映す世代分断
|マネー潮流|パウエルFRB議長再任後の金融政策|木内登英
|少数異見|結婚騒動を注意しない新聞の堕落
|知の技法 出世の作法|ベラルーシ経由の難民流入で 緊張する欧州とロシア|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|「自信過剰」なCEOが利益を上げるのはなぜか|山本裕一
|話題の本|『四国辺土 幻の草遍路と路地巡礼』著者 上原善広氏に聞く ほか
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