週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2022年2月19日号
2022年2月14日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】病院サバイバル


コロナ禍は、日本の医療システムが抱えてきたさまざまな矛盾、脆弱さを露呈させました。これを契機とした再編機運にざわつく地域がある一方で、経営拡大に勢い込む勝ち組の医療法人も。本誌が独自に入手した220法人の最新決算データから、その現実が見えてきます。

ファンドも絡んだ病院の再編や診療所の廃業ラッシュから、日本医師会の強烈な利権団体ぶり、有力医師が受け取る製薬マネーの実態まで。日本の医療のリアルを徹底追跡しました。

担当記者より

特集「病院サバイバル」を担当した井艸恵美です。今回の特集の原稿を書き上げると、ちょうど会社四季報を担当する「パラマウントベッド」の決算発表がありました。業績はすこぶる好調で、会社の予想を大きく上回る着地になりそうです。要因は、医療用ベッドの販売がぐんと伸びているから。同社の担当者によると、コロナ関連の補助金で潤った病院がベッドの買い替えを積極的に進めているとのこと。なるほど。特集の目玉である医療法人の決算ランキングと照らし合わせると、合点がいきました。コロナの補助金が収益を底上げして、大きく増収した医療法人が少なくありません。

医療法人の決算は、一般の人の目には触れにくいと思います。上場企業は決まった時期に決算発表されますが、医療法人の決算は都道府県に情報公開請求をして集めなければならず、集計には苦労しました。入手した決算届をもとに病院に話を聞くと、大幅に増収増益している病院でも、“嬉しい顔”は決して見せません。「補助金がなければ大幅な赤字だった」とむしろ、“苦しい顔”を見せたがるのが不思議です。国が定める診療報酬で収入が決められ、「非営利」が原則である病院独自の文化でしょうか。

その一方、「儲かっている分を給与アップに回してほしい」という看護師の声も聞こえてきました。看護師の賃金は高いというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、ハードな夜勤に対する手当が大きいことがわかりました。9割以上が女性の看護職は、育児で夜勤に入れず、給与が減ってしまうことが多々あるようです。

看護師専門の人材紹介会社に勤めていた人に話を聞くと、アルバイトで複数の病院に掛け持ちしたり、手当のつく夜勤だけ入ったりする看護師もいるそうです。「稼ごうとしたら稼げるが、身を削っている」というのが、その人が抱く印象でした。

団塊の世代が75歳以上になる2025年には、看護師が6~27万人不足すると推計されています。これまで当然のように受けられていた医療サービスが受けられなくなると思うと、決してひとごととは思えませんでした。

担当記者:井艸 恵美(いぐさ えみ)
群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
病院サバイバル

PART I 医療とお金 最新事情
サバイバル競争が加速 病院淘汰のカウントダウン
220法人の最新決算を独自入手 医療法人の経営力を大調査
[ランキング] 増収率トップ15/減収率トップ15
売上高1位の徳洲会、増益率67%に 医療法人売上高ランキング
【スクープ】東京女子医大 小児ICUチーム解体の内幕 「儲からないから」と判断した経営陣の裏切り 岩澤倫彦
コロナ禍で加速、廃業は最多に 迫るクリニックの「大淘汰」
アフターコロナでどう変わる?  病院経営を読み解くQ&A 渡辺 優
最高額は4年で9000万円 最新版公開!製薬マネーと医師
[製薬マネー支払額 2020年度ランキング] 謝金は軒並み減少でも コロナ関連などの研究費は増加した

PART II 医療の制度疲労
国民に露呈した「経営者団体」の正体 不信感渦巻く 「日本医師会」 槇ヶ垰智彦
[インタビュー] 「病院と医療保険の統合再編は待ったなし」 慶大名誉教授 池上直己
慢性的な人手不足とサービス残業 看護師の賃上げは難しい
はじける医学部バブル ブラック職場で志願者減
コロナ禍で繁忙極める医療現場 膠着する医師の働き方改革
高額違約金で年季奉公を強要 医学部入試「地域枠」の不条理
[インタビュー] 「アフターコロナを見据え経営を引き締めていく」 徳洲会グループ理事長 安富祖久明

産業リポート
アシックスが頂上奪還へ 打倒ナイキへの強い執念
[インタビュー] 「アスリートたちからの支持を取り戻す」 アシックス社長COO 廣田康人

深層リポート
日本橋1兆円プロジェクトの行方 東京の「水辺」は戻るのか
[インタビュー] 私が考える首都の水辺再生策
「舟運活性化のため都は意見を聞いて」 三浦屋7代目主人 新倉健司
「水辺を活性化すれば東京の大きな魅力に」 PIER139研究会代表 高松 巌
「水辺の理想形は住民の合意形成で」 水辺総研代表取締役 岩本唯史

ニュース最前線
セブンが米ファンドと対立 百貨店売却で終わらぬ難路
日本電産が半導体に本腰か 「エース」獲得に秘めた真意
ネット広告で変わる潮目 メタとグーグルの明暗


連載  
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|ニュースの核心|デジタル人民元 VS. デジタルドルを展望する|野村明弘
|発見!成長企業|人・夢・技術グループ
|会社四季報 注目決算|今号の4社
|トップに直撃|堀場製作所 会長兼グループCEO  堀場 厚
|フォーカス政治|“安倍離れ”進める首相のしたたかさ|歳川隆雄
|中国動態|「世論工作」で日米の分断図る中国|小原凡司
|財新 Opinion&News|中国「石炭産出量」が過去最高更新の気まずさ
|グローバル・アイ|世情とずれるインフレ感覚 中央銀行が面目を失う理由|ハワード・デービス
|Inside USA|始まった「大量離職」の時代 コロナ禍で労働者が反乱|瀧口範子
|FROM The New York Times|ロシアのウクライナ侵攻で 飛び交う「推測シナリオ」
|マネー潮流|米国金融政策の予測が割れる訳|森田長太郎
|少数異見|脱ハンコの次はこれ。脱名刺のススメ
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訂正情報

「週刊東洋経済2022年2月19日号」(2月14日発売)に、以下の間違いがありました。訂正してお詫び致します。
 
47ページ ■医療法人売上高ランキング

168位 和仁会の病院
【誤】仁和会病院
 ↓
【正】和仁会病院