週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2022年9月3日号
2022年8月29日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】食料危機は終わらない


ウクライナ危機、歴史的円安、相次ぐ異常気象・・・。この秋、輸入依存の日本に押し寄せるのは終わりの見えない食料インフレの連鎖です。本特集では日本の食卓を襲う春を超える食料危機の現状を、多方面から描きました。小売り大手がやせ我慢を続ける一方、飲料の値上げラッシュや外食のインフレ閉店が生じています。年々被害が深刻化する気候変動や家畜の伝染病なども背景に、世界中で食料争奪戦が繰り広げられています。食料の国産化は急務ですが、高齢化や耕作放棄が深刻化する日本の農業の大問題にも迫りました。
 

担当記者より

特集「食料危機は終わらない」を担当した森創一郎です。「小麦の価格、10月改定でさらに20数%上がりますよ」。7月、製粉業界の関係者から囁かれた情報で、取材が本格的に動き出しました。小麦の流通価格は政府が製粉業者に売り渡す価格が基準となって決まります。年2回の改定で、去年10月に19%、今年4月に17.3%値上がりし、さらに20%以上値上がりするというのです。これは日本の食卓が、大ごとになる。

結局、政府が10月改定で価格据え置きの緊急措置を発動し、幾分、インパクトは和らいだものの、10月には6305品目の食品が値上げを予定しています。

なぜ、こんな騒ぎになっているのか。日本の食料自給率が38%程度で多くの食料原料を輸入に頼っているからだ、というのはなんとなく知っていましたが、国産の農産物を支える肥料原料の大半を中国、ロシア、ベラルーシなどに頼っている現実は取材を通して初めて知りました。一大穀倉地のロシアとウクライナで戦争が始まり、日本と同様、中国でも「洋食化」が進むことで飼料の原料となるトウモロコシも中国が爆買いする。

一方、農産物の国産化は食料危機が叫ばれるたびに課題として浮かびあがるものの、日本の農業政策は減反政策一本槍という矛盾・・・。農家は、自分のつくった作物の値段について、買い取っていく農協と交渉できるわけではなく、FAX一枚でいくらになりましたと通知が来るだけ。農産物の価格は需給で決まり、価格交渉の余地はありません。肥料などの農業資材の高騰分を価格転嫁できるわけでもありません。

こんなにもシビアな現実が日本の食卓の背景に横たわっていたとは、驚くばかりです。「食」の問題を徹底的に考え抜いた特集をぜひ、ご一読いただければ幸いです。

担当記者:森 創一郎(もり そういちろう)
1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
食料危機は終わらない

Part1 値上げの秋が来る
春を超える第2波が到来 日本の食卓を襲う食料危機
「輸入依存」の日本にリスク襲来
スーパーvs.メーカー 水面下の価格綱引き イオン「やせ我慢」に募る憂鬱
値上げラッシュは続くのか 飲料業界「脱・安売り」の厳しい現実
ガストなど約100店が対象 すかいらーく「インフレ閉店」の苦境
輸入物価指数は1年で1.5倍に 「賃上げなき物価上昇」の行方

Part2 世界食料争奪戦
地政学リスクがもたらす混乱 長期化必至の穀物価格高騰
[インタビュー]14億人の"爆食"はいつまで続くか?
「中国の食料政策は転換点に」 農林中金総合研究所 理事研究員 阮 蔚
[図解]世界の食料危機マップ 主要な穀物生産国と各国の飢餓人口の割合
干ばつ頻発、穀物生産は減少へ 異常気象が常態化する
[インタビュー]日本の“食と農”は脆弱 都市型農業を構築せよ 
「食・水・エネルギーに国家のレジリエンスを」 日本総合研究所 会長 寺島実郎

Part3 農業の大問題
泥縄式の対策には限界 「肥料暴騰」で見えない出口
食料安保の切り札になるか 「第2青函トンネル」構想の現実味
5年後に耕作放棄地が増える? 豊作喜べぬコメ政策の隘路
[インタビュー]日本の農業と食料安保の行方
「有事に備えたコメ政策を」 自由民主党 衆議院議員 小野寺五典
行列のできる野菜作り、加工品販売も 「自立する農家」の生存戦略
富士通、パナソニックも不振 スマート農業の実装を阻む壁
[インタビュー]ベンチャーがスマート農業を変える
「海外展開の切り札にも」日本総合研究所創発戦略センター エクスパート 三輪泰史
[インタビュー]何が日本の農業をダメにしたのか?
「『儲かる農業』の裏で農業のハリボテ化が止まらない」明治学院大学経済学部 教授 神門善久
「国が進めるコメの減反政策はチグハグだ」キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁

深層リポート
転換期のシンガポール 次の指導者は異例の庶民派
「中国排除」をうまく活用 シンガポールの漁夫の利

スペシャルインタビュー
ヤマダホールディングス 会長兼社長 山田 昇
ヤマダデンキ「反撃ののろし」 「暮らしまるごと」でシェアを奪還する


ニュース最前線
ホンダ系列ミネベアに売却 部品メーカーに漂う危機感
営業職員の経費は自己負担 住友生命へ広がる猛反発
大手化粧品メーカー総崩れ 「ドル箱低迷」の深刻事情


連載
|経済を見る眼|掛け算としての人的資本価値|柳川範之
|ニュースの核心|岸田政権「物価対策」、お金の使い方の大問題|野村明弘
|発見! 成長企業|不二家
|会社四季報 注目決算|今週の4社
|トップに直撃|北國フィナンシャルホールディングス 社長 杖村修司
|フォーカス政治|日本の「保守政治」の変質と凋落|山口二郎
|中国動態|「台湾包囲演習」で習政権が失ったもの|益尾知佐子
|財新 Opinion &News|中国来年にも人口減少へ、親世代の支援が必須
|グローバル・アイ|「不況シナリオ」に染まる世の中への違和感|ジム・オニール
|Inside USA|異例の超党派協力、「対中」半導体強化法の中身|ジェームズ・ショフ
|FROM The New York Times|食料配給所が家族の命綱 米国を襲うインフレの深刻
|マネー潮流|FRBの5つのステージをどう読むか|木内登英
|少数異見|宗教に関連した情報開示の強化を望む
|知の技法 出世の作法|ウクライナ戦争を最大限利用する北朝鮮の思惑|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|「炭素税収」活用の可能性 累進化、大胆な財政政策も|山崎晃生
|話題の本|『調査報道記者 国策の闇を暴く仕事』著者 日野行介氏に聞く ほか
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