担当記者より
特集「ゼネコン 両利きの経営」を担当した梅咲恵司です。ゼネコンに関する特集については、7カ月前の2/12号で「ゼネコン 四重苦」を取り上げたばかり。これほどの短期間で同じ業界の特集を組むことはなかなかありません。それだけゼネコン業界の最近の動きが活発化しているということかもしれません。
今回の特集は「業界大再編」と「両利きの経営」という2つをキーワードに展開しました。どちらも、ここ1年ほどの取材の中で印象に残っていた言葉です。
「ゼネコンに再編なんて起こらないよ」。昨年の冬のこと、取材中に雑談していた際に、中堅ゼネコンのある幹部がそう言い切りました。ゼネコンの関係者には、「合併すると1+1が2になるのではなくて1のまま。単純に入札機会が減るだけ」という意識が根底にあります。確かに、これまでも大きな再編につながることはありませんでした。
ところがその後、状況が大きく変わりました。特に驚いたのが、異業種の参入です。昨年12月に、総合商社の伊藤忠商事が準大手ゼネコンの西松建設に出資。総合商社が大手ゼネコンに出資したことは、過去にはありません。今年7月には、麻生が準大手ゼネコンの大豊建設に出資しました。
もうひとつの印象的な言葉は、1年ほど前のインタビュー時におけるスーパーゼネコンの経営トップのものでした。その経営トップはインタビューに入る前に、こう切り出しました。「『両利きの経営』を読みましたよ」。
『両利きの経営』は東洋経済新報社刊の経営書です。その経営トップは記者である私ならば『両利きの経営』を読んでいるだろう、と思って声をかけたのでしょうが、恥ずかしながら、私はその時点では読んでいませんでした。
慌ててその後に、同書を手にとってみると、腑に落ちました。ゼネコン各社は今、本業である建設事業だけでなく、不動産開発や施設の運営管理など非建設分野の強化に乗り出しています。まさに「両利きの経営」を志向しているのです。西松建設が伊藤忠商事と経営タッグを組んだのも、不動産開発などの非建設分野を拡充することに主眼が置かれています。
業界再編と両利きの経営は、表裏の関係にある--。前出の経営トップは、今後の取材や企画の「着眼点」を私に示唆してくれたのでしょう。
特集では、ゼネコンの再編は新しい「3つの形」で進むこと、建設と非建設の「二兎を追う」新時代に入ることを取り上げました。東洋経済の豊富なデータに基づいた独自ランキングも複数用意しました。ぜひ、お手にとってご覧ください。
担当記者:梅咲 恵司(うめさき けいじ)
ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。
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