週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2022年10月8日号
2022年10月3日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】宗教 カネと政治 


安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件の背景には、「宗教」の影がありました。本誌4年ぶりの宗教特集では宗教法人にまつわる「カネと政治」を、あらゆる角度から解剖しました。銃撃事件を引き寄せた「宗教と家族崩壊史」や関係の深い企業・団体一覧など、目下注目の統一教会の深い闇に斬り込みました。また優遇税制の一方で不明朗な会計が宗教法人に許される文化庁との「裏約束」、独自の770人アンケートで明らかになった「宗教2世」の苦悩、創価学会・幸福の科学など主な新宗教団体の最新動向にも迫りました。

担当記者より

特集「宗教 カネと政治」を担当した野中大樹です。安倍晋三元首相が銃撃され死亡するという衝撃的な事件から3ヶ月が経とうとしています。このかんマスコミは旧統一教会と接点を持ってきた国会議員の洗い出しに奔走しました。無理もありません。山上徹也容疑者が「統一教会信者の母親の献金のせいで家族が崩壊した」「安倍元首相が影響力のある統一教会シンパだと思った」と動機を語っているからです。「接点があった議員」叩きが過熱する中、少し冷静になって現実を直視してみよう、という意識で特集を作りました。

統一教会といえば、先祖の霊やたたりの話を持ち出して高額なつぼや印鑑を売りつける、いわゆる「霊感商法」が1980年代から90年代にかけて社会問題になりました。国会でもたびたび問題視され、マスコミは大きく取り扱いました。しかし報道は90年代後半から下火となり、この10年はほとんど取り上げられませんでした。「失われた30年」と呼ぶ人もいますが、この30年間、教団はずっと国が認める「宗教法人」であり続けました。宗教法人であれば税の優遇など多くの特典を得ることができます。1995年のオウム真理教事件を受けて政府は宗教法人法を改正し、各宗教法人に財務諸表の提出を義務づけましたが、公開はされません。我々メディアが情報公開請求をしても、所管の文化庁は「非開示」決定を下すのです。なぜでしょうか。

今回、私たちの取材で、宗教法人と文化庁が交わしていた「裏約束」の存在が明らかになりました。「信教の自由」が守られなければならないのは当然ですが、それは、宗教法人の財務情報などが「非公開」でありつづける必要になるのでしょうか。少なくとも宗教法人と同じように税制優遇を受けている公益法人や学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人などは情報開示が義務づけられているのです。

政府がもっとも恐れるのが国会議員です。その国会議員が統一教会のイベントに出席して挨拶をしたり、祝電を送ったり、あるいは安倍元首相のようにビデオメッセージを送ったりしてきました。そんな宗教法人に政府が介入したり、解散命令請求を出したりすることができるでしょうか。容易ではないはずです。

「教団イベントに出席したか否か」「祝電を送っていた否か」それ自体が重要なのではありません。国会議員が教団を守ることで何が維持されたのか、が重要なのです。国会議員が統一教会を応援し、政府が「保護」を続けた結果、教団の体質は維持されてしまったのです。そのツケが最悪の形で表出したのが、山上容疑者による安倍元首相の銃撃事件でした。

担当記者:野中 大樹(のなか だいき)
週刊誌記者を経て2018年、東洋経済新報社に入社。現在は統合編集部。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
宗教 カネと政治

罪を負うべきは山上徹也容疑者だけか
銃撃事件を引き寄せた「宗教と家族崩壊史」
[図解]統一教会と山上家崩壊の結節点

PART1 統一教会の闇
統一教会と関係深い企業一覧
鮮魚・飲料・置き薬・自動車学校・病院・学習塾…

[インタビュー]北海道大学大学院教授 櫻井義秀
「教祖・文鮮明氏は現金を持ってくる人間を重宝した」

韓国農村部の男性に嫁ぐ本音 統一教会の日本人女性が「韓国男性に尽くす」謎
 
大阪公立大学都市文化研究センター研究員 中西尋子

[インタビュー]容疑者の伯父が語る
「返金終了」が山上家貧窮の決定打

[インタビュー]宗教学者 島薗 進
「宗教が他者への抑圧、排除、人権侵害に向かっている」

神道政治連盟「差別冊子」の波紋
「LGBTたたき」で一致する統一教会と神社本庁

PART2 守られる宗教法人
統一教会の名称変更文書、黒塗りの根本原因
文化庁が宗教法人と交わした「裏約束」

[インタビュー]元文部科学事務次官 前川喜平
「”いっさい出しません”と約束した」

「坊主丸儲け」批判に現役僧侶が応える 宗教法人「優遇税制」の真相
  
元国税査察官・税理士・僧侶 上田二郎

[インタビュー]憲法学者 南野 森
無制約ではない「信教の自由」

PART3 宗教2世の苦悩
[エホバの証人]組織としての責任を認めない宗教団体
たたかれた子とたたいた親との溝


2世の苦痛の多くは「信仰の強制」
[図解]独自アンケート 宗教2世770人の声

[インタビュー]宗教社会学者 塚田穂高
「”家族や個人のせい”は責任ある教団の態度ではない」

PART4 衰退する新宗教

「政治家と宗教団体」もたれ合いの果て 銃撃事件が凋落に拍車 『宗教問題』編集長 小川寛大

[創価学会]寄付や公明党の得票数は、往年の勢いなし 団塊世代の退場で弱体化 ジャーナリスト 高橋篤史
元理事長の息子が語る 「違和感の消化不良」が学会離れを起こす 文筆家 正木伸城

[幸福の科学]教団の抗議に萎縮するメディア 宗教2世マンガ削除問題で集英社が失ったもの  ジャーナリスト 藤倉善郎
[QアノンにJアノン、参政党まで]陰謀論を信じる人々 「サブカル運動」として定着  ジャーナリスト 藤倉善郎
統一教会の「恫喝」に耐えた 鈴木エイトの孤独な闘い

スペシャルリポート
REITの鑑定額引き上げ 日本エスコン「関与」の真相
投信協会が警告 「さらなる不正」が発覚

ニュース最前線
24年ぶり「円買い」介入 円安収束の観測に潜む死角
百貨店の「高額品バブル」 陰で進む収益構造の劣化
タイヤ異例の2度値上げ カー用品店に広がる戸惑い


連載
|経済を見る眼|過去最高の女性の労働参加と次の課題|太田聰一
|ニュースの核心|あべこべとなった世界をどう生き抜くか|山田雄大
|発見! 成長企業|エアークローゼット
|会社四季報 注目決算|今号の4社
|トップに直撃|USEN-NEXT HOLDINGS 社長 宇野康秀
|フォーカス政治|支持率急落でも直面する重要課題|歳川隆雄
|中国動態|「中ロ関係」習体制の新たな弱点に|小原凡司
|財新 Opinion &News|ゼロコロナで困窮する中国の社会的弱者
|グローバル・アイ|パキスタン大洪水の責任の半分は先進国にある|ジェフリー・サックス
|Inside USA|給料分しか働かない 広がる「静かなる退職」|瀧口範子
|FROM The New York Times|チャールズ3世が継承 秘密に包まれた膨大な資産
|マネー潮流|日米長期金利差の収斂水準と為替相場|森田長太郎
|少数異見|大国幻想を捨てミドルパワーの生き残り策を
|知の技法 出世の作法|対ウクライナ戦略を変更するロシア①|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|政策目標としての「幸福度」 科学的測定・分析は可能か|伊藤ちひろ
|話題の本|『すべての企業人のためのビジネスと人権入門』 著者 羽生田慶介氏に聞く ほか
|シンクタンク 厳選リポート|
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|編集部から|
|次号予告|

訂正情報

「週刊東洋経済2022年10月8日号」(10月3日発売)に、以下の間違いがありました。訂正してお詫び致します。
 
17ページ ■24年ぶり円買い介入

上から2段目、10行目
「ている。」を削除します。
86ページ ■著者に聞く
『すべての企業人のためのビジネスと人権入門』

著者が代表を務める企業
【誤】オウルズコンサルティングループ
   ↓
【正】オウルズコンサルティンググループ