週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2022年12月3日号
2022年11月28日 発売
定価 780円(税込)
JAN:4910201311224

【特集】認知症 全対策


「親が認知症と診断されたが、相談しようにも知識がなく、何を聞いたらいいかもわからない」。2025年には高齢者の5人に1人がなるとの試算もある認知症は、ひとごとではない身近な問題になっています。最適な介護サービスや施設をどうやって選べばよいか? 費用や資産の相続、薬の効果や新薬の開発状況、予防法やチェック、早期発見の方法……本特集では、「知れば怖くない」をコンセプトに、さまざまな“対策”を紹介していきます。

担当記者より

特集「認知症全対策」を担当した大竹麗子です。今回の取材では多くの介護者の方にお話を伺いました。印象的だったのが、認知症の母を介護する50代の女性のお話です。「事前に知識があれば、こんなに大変な思いはしなかったと思う」とこぼしていました。介護開始直後は知識がなく、なにを聞けばいいのか、どこに相談すればいいのか分からず、一人で抱え込んでいたそうです。「周囲の無理解な対応が認知症の症状を悪化させるとわかっていてもつい怒鳴ってしまい」自己嫌悪にしばしば陥っていたといいます。転機になったのが認知症カフェなど支援団体との出会いです。

行政の相談窓口では対応しきれない悩みやちょっとした介護のコツを介護者同士で共有できたこと、また、同じ立場の人同士で愚痴を言い合うことでずいぶん楽になったと振り返っていました。なかでも「心身の負担が減ったことで、母にも余裕をもって接することができ、母の症状も目に見えて改善したのが本当に嬉しかった」といいます。

2025年には65歳以上の方の5人に1人が認知症になるという推計もあります。一方、65歳以前で発症する若年性認知症の方も4万人いるといい、一定の年齢を超えればひとごとの話では済まなくなります。一方で、「認知症はなったら終わり」ではありません。発症後も症状の進行を緩やかにする、介護をラクにする工夫は数多くあります。また、発症を遅らせる、防ぐことも可能であると最新の研究で明らかになっています。

自分や両親が認知症になったらと不安を抱えている読者や介護を始めたばかりでどうすればいいかわからないと悩まれている読者の方の支えになる特集にしようと、「知れば怖くない」をコンセプトに執筆しています。認知症の基礎から最新の予防法、介護のハウツーまでさまざまな”対策”を網羅しました。行動制限も緩和され、この冬は帰省する方も多いかと思います。ぜひご家族皆で本特集を読んでいただければ幸いです。

担当記者:大竹 麗子(おおたけ・れいこ)
東洋経済 記者
1995年東京都生まれ。大学院では大学自治を中心に思想史、教育史を専攻。趣味は、スポーツ応援と高校野球、近代文学など。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
認知症 全対策

手続き、お金、介護、医療・・・
お悩み別インデックス

Part1 認知症の基本
基礎から丁寧に解説 医師が答える認知症5つの疑問
変化に気づくことが対策の第一歩 発症前に早期チェック

[インタビュー]「認知支援が本来のデザインの役割だ」
『認知症世界の歩き方』著者 issue+design代表 筧 裕介

悪影響は発症前の高齢者にも 長引くコロナ禍で症状悪化

[インタビュー] 若年性認知症と生きる 「仲間との出会いで人生が楽しめる」
カメラマン・法人職員 下坂 厚

Part2 認知症の介護と支援
流れがわかる 介護開始までのフロー
必見! 認知症介護にかかるおカネシミュレーション
「共倒れ」にならないために先人に学ぶ 認知症介護のリアル
よくある困ったを専門家に聞く 介護のお悩みQ&A

認知症に寄り添うケア ユマニチュード実践の要
キーワードは「小さなカフェ」 コロナ後の認知症カフェ
最新家電で手軽につくれる DIYでスマート見守り

気になる費用から施設の特徴、最新事情まで 失敗しない施設の選び方
リハビリだけじゃない効果 作業療法でお悩み解決
限られた予算下の国・自治体政策 地道な官民連携がカギ

Part3 認知症と相続・資産
判断能力なければ資産凍結 資産保全策は事前が最善
横領に移動制限・・・ ひどい実状 成年後見制度の落とし穴
相続対策と資産凍結対策を兼ねる 一石二鳥の家族信託活用

Part4 認知症の医療
介護の負担増になることも 認知症薬に「頼る」危うさ
エーザイの認知症薬候補 レカネマブは救世主となるか
光認知症療法、ICTで見守りケア・・・ 認知症研究の最前線

Part5 認知症の予防
予防の第一人者が教える 認知症予防のQ&A
発症したら一時金などの保障が充実 認知症保険の中身とは
予防の第一歩はここから 手軽な検査でリスク測定

相談窓口、専門医、団体、書籍、Webサイト・・・
頼りになる! 認知症お助け手帳

[インタビュー] 「遠距離介護でも罪悪感抱かないで」
劇作家・演出家・俳優 渡辺えり

ニュース最前線
総合商社が軒並み好決算 問われる非資源事業の拡大
スカイマーク悲願の再上場 いまだ視界不良の成長戦略
サイバー攻撃で深刻被害 電子化進む病院の重い課題


連載
|経済を見る眼|最低賃金の設定をめぐる問題は何か|太田聰一
|ニュースの核心|「マイナ保険証」で露呈、政府のやり方は本末転倒|野村明弘
|発見! 成長企業|オービック
|会社四季報 注目決算|今号の4社
|トップに直撃|京セラ 社長 谷本秀夫
|フォーカス政治|それぞれの「1997年11月」|軽部謙介
|中国動態|専制国に広がる中国型監視システム|益尾知佐子
|財新 Opinion&News|中国のiPhone工場、コロナパニック発生
|グローバル・アイ|変容するファシズム、ムッソリーニの教訓ヤン=ヴェルナー・ ミュラー
|Inside USA|米国で封印される「公的年金改革」の議論|安井明彦
|FROM The New York Times|吹き荒れるレイオフの嵐 テック大手「大量採用」のツケ
|マネー潮流|中間選挙結果が示すエネルギー大国の針路高井裕之
|少数異見|マネーの力で経営の世代交代を進めよう
|知の技法 出世の作法|ヴァルダイ会議におけるプーチン大統領の発言③佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|グリーン債による資金調達 気候変動対策の政治経済学|山上浩明
|話題の本|『中国パンダ外交史』著者 家永真幸氏に聞く ほか
|シンクタンク 厳選リポート|
|PICK UP 東洋経済ONLINE|
|ゴルフざんまい|やり方を変えるのは1つずつが鉄則|小林浩美
|編集部から|
|次号予告|