担当記者より
特集「弁護士・裁判官・検察官」を担当した山田雄一郎です。
主に検察官のパートを担当しました。裁判の傍聴取材を割としているほうなのですが、現職の公安担当の警察官や検事、経済産業省の職員が証言台に立つのを見るのは初めてでした。大川原化工機の大川原正明社長が、国と東京都を訴えた国家賠償裁判でのことです。
この大川原社長、そもそも犯罪が成立しない事案について、警視庁によって逮捕され、検察によって起訴されました。この間、約11か月も身体拘束されたのです。ところが第1回公判の直前、このままでは裁判で負けてしまうと判断した検察によって起訴が取り消されました。これではあまりにも理不尽です。そこで大川原社長は国と東京都を訴えたのです。
国家賠償裁判での爆弾発言は、警視庁の警部補から飛び出しました。国や東京都にとっても衝撃的でした。
「公安部が事件をでっちあげたという点は否めないかと思うが、違いますか?」と大川原社長の弁護士が質問した時です。証言台のA警部補が「まあ、捏造(ねつぞう)ですね」と答えたのです。
実は、証人として東京都が警戒していたのは別のB警部補でした。大川原化工機の立件に早い段階から懐疑的だったからです。B警部補を証言者として呼びたくないから、「実際に実験に立ち会ったA警部補を呼んだほうがいい」と東京都は主張していたのでした。これが東京都にとってはやぶ蛇で、裁判所を交えた協議の結果、2人とも呼ぶことになったのでした。
A警部補は、経産省と警視庁との間の打ち合わせの内容を記した「捜査メモ」をしっかりと読み込み、正確な証言ができるように準備してきました。大川原社長の弁護士に聞かれたことに、ごまかしたり隠したりすることなく、捜査メモに基づいて正直に答えました。
B警部補も、捜査の実情について、批判的な観点から証言しました。
都合の悪い質問に「覚えていない」を連発した経産省職員や起訴をした検事、起訴を取り下げた検事、捜査チームを主導した警部 、警部の命令に従順だった警部補の話に比べると、2人の警部補の証言は生々しく、本当のことを言っているな、という印象でした。
このほか、関係者にウソの供述をさせて東証1部上場社長を逮捕し起訴、長期勾留したプレサンスコーポレーション事件、検察の主張が覆され一審に差し戻されたナイス事件など、検察の捜査や起訴、証券取引等監視委員会の調査や告発が、いかにずさんであるかを取材しています。記事を読んでいただけると、現在の検察は経済犯罪を立件する技法をあまりにも研ぎ澄ましてきた結果、シロ(無実)の企業人をクロ(犯人)に仕立てあげていることがわかります。
特集では、弁護士、裁判官、検察官のホットイシューについて、フリージャーナリストを含む取材チームが取材し記事をまとめました。日本の司法のインフラはかなり危うい。瓦解する寸前だ。それが取材チームの結論です。ぜひ、お手にとってご覧ください。
担当記者:山田 雄一郎(やまだ ゆういちろう)
東洋経済記者。1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。
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