特集「絶望の中国ビジネス」を担当した西村豪太です。
李克強前首相の急死、反スパイ法違反によるアステラス製薬駐在員の逮捕など、中国に関する衝撃的な報道が続いています。そのなかで目立ちませんでしたが、ビジネスパーソンなら見逃せないニュースがありました。
今年7~9月に、中国に対する直接投資が118億ドル(約1兆7700億円)の流出超過となったのです。外資系企業による中国への新たな投資よりも、撤退や事業の縮小が上回ったとみられます。直接投資が流出超過となったのは、統計がある1998年以来で初めてのことでした。
最近も三菱自動車が中国市場からの撤退を決めました。最初は「世界の工場」、のちには「世界の市場」としてグローバル企業を引き寄せてきた中国に、大きな転機が訪れています。
並行して、中国企業による海外への投資も拡大しています。中国国内のビジネス環境の悪化を嫌って、海外に活路を求める企業が増えているとみられます。今年7~9月の国内向けと海外向けの直接投資を差し引きしたところ、658億ドル(約9兆3000億円)の流出超過となりました。これは過去最大の数字です。外資、中国系を問わず、企業が逃げ出しているといえます。
中国では不動産不況が長期化していますが、その過程で起きた民営企業バッシングは投資意欲を大きくそいでいます。また、中国政府は口では外資を歓迎していますが、企業の側は中国への技術移転の強要や反スパイ法による駐在員の拘束などに警戒感を高めています。
今回取材した中国ビジネスのベテランたちは、異口同音に「中国政府の優先順位が変わった」と話していました。習近平政権にとって、現在の最優先課題は経済成長ではなく、「国家安全」だといいます。共産党が経済よりも大事にしている「国家安全」は、中国をどう変えていくのでしょうか? そして、日本企業のビジネスへの影響は? その答えをぜひ誌面でご確認ください。
担当記者:西村 豪太(にしむら ごうた)
1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。