特集「シン・日立に学べ」を担当した梅垣勇人です。
年末に海外駐在から一時帰国した学生時代の友人に会いました。某大手自動車部品メーカーに勤める彼曰く、「日本企業の海外進出でJTC用語が輸出されている」というのです。
JTCとは、Japanese Traditional Companyの略。伝統的日本企業の意味で、旧態依然とした日本の大企業を揶揄するときなどに使われます。いざ海外に赴任してみると、英語や現地語で会話する従業員の間で「Nariyuki(成り行き)」「Yarikiri(やりきり)」、「Chakuchiten(着地点)」など日本の業界独自の用語が当然のように飛び交っていて驚いたそうです。
ビジネスのやり方も日本式が徹底されており、「せっかく海外で働いていてもやっていることは(本社がある)愛知と同じ。違うのは労働基準法がないからほぼ無限に働けるということだけ」。彼はそう言い残して赴任先へと戻っていきました。
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされた1980年代、日本の製造業のやり方が世界最先端だった当時は、日本式をそのまま輸出することが海外進出でした。しかし、米グーグルやアップルの台頭を例に挙げるまでもなく、日本の製造業がもてはやされた時代は過ぎ去りました。
現代の日本企業に求められているのは、デジタル化、グローバル化、ガバナンス強化という3つの変革です。とくに大手の上場企業には海外投資家の厳しい視線が注がれるようになったことで、こうした変革は待ったなし、という段階に来ています。
2008年度に史上最大の7873億円の最終赤字を経験した日立製作所が選んだのは、海外の知見に学ぶということでした。世界の大手企業の経営幹部を社外取締役として多数招聘し、「現社長が次期社長を決める」といった密室のガバナンスを徹底排除。
2度の1兆円級の買収経て取り込んだ米国や欧州の企業からも学びました。買収を主導した経営陣は「『買収先の企業に学ぼう』と部下に声をかけ続けた」といいます。結果として日立はデジタルや脱炭素の事業領域で大きな成果を上げています。
私が勤める東洋経済新報社も創業129年の立派なJTC。私たちが日立の成功からどんなことを学べるか。今回の特集ではそんなテーマで取材を進めました。
担当記者:梅垣 勇人(うめがき はやと)
証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。