特集「絶頂トヨタの試練」の編集を担当した木皮透庸です。私自身は2022年9月まで4年近くトヨタグループの担当記者だったので、特別な思いで今回の特集に携わりました。
トヨタは2024年3月期に過去最高の営業利益や純利益を見込み、足元の業績は絶好調です。3月13日に回答が示された今年の春闘では、4年連続の満額回答で年間一時金は7.6カ月分と過去最高となりました。
その一方、トヨタグループでは認証試験における不正が相次ぎ、大きなギャップを感じます。ダイハツ工業では「過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー」、豊田自動織機では「合理的とはいいがたい開発スケジュール」に加え、「受託体質」に代表される企業風土・体質などが不正の原因と指摘されました。
豊田織機はトヨタの源流企業であり、デンソーやアイシンと並んで御三家とも言われる名門です。その名門が「自ら責任を持ってリスクに対処する行動が身についていない」と指摘されたのです。同社ではトヨタから開発や製造を受託している自動車用エンジンだけでなく、世界シェア首位を誇る本業のフォークリフト向けなどの産業用エンジンでも不正を行っていました。環境規制などのルールを守らずに販売を積み上げる行為は、顧客や社会に対する背信行為であり、製造業としてゼロからのやり直しが必要です。
トヨタブランドの強みは、長い期間を経て培ってきた安全性や品質に対する顧客の信頼にほかなりません。今回グループで安全性や品質をないがしろにした不正が発覚したことは、各社の事業規模が本来の実力を超えたり、グループ全体で進める事業再編の中でシワ寄せが起きたりして、ひずみが噴出したのかもしれません。東洋経済の取材に対し、トヨタ幹部は「ここ最近みんな余裕のない状態で仕事をし過ぎた」と語っています。
安全性や品質の問題は対応いかんで製造業にとって致命傷になりかねません。出資や役員派遣で経営に影響力を及ぼしている以上、グループ各社の監督責任はトヨタに一定程度あるものと考えます。だからこそ、グループ内の事業が正しく行われるようにどのように各社を導いていくのか、トヨタには今一度立ち止まって考えて欲しい。そんな思いが本特集の底流にあります。自動車産業に携わっている方はもちろんのこと、そうでない方にもぜひお手に取っていただきたいです。
担当記者:木皮透庸(きがわ ゆきのぶ)
1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。