特集「わかる!地政学」を担当した福田恵介です。
最近、不思議に思っていることがあります。
これまで「経済難」「飢餓の国」とさんざん言われてきた北朝鮮ですが、今は「ウクライナ戦争でロシアは砲弾が足りず、北朝鮮が大量に兵器を送っている」という見方があります。
しかし経済難で餓死者が出るような国が、ロシアに求められたからといって、短期間で武器を輸出できるものでしょうか。
私の取材によれば、北朝鮮によるロシアへの武器輸出について、その信ぴょう性はあいまいです。「ロシアのほうがはるかに軍事工業大国。生産量も北朝鮮とは比べものにならないぐらい多く、その点でロシアからは期待されていない」という話を北朝鮮関係者は口を揃えます。
また、核兵器の開発・高度化に注力している北朝鮮にとって、砲弾といった通常の兵器や装備は、自国向けに振り向けるので精いっぱいだそうで、輸出するまでの余力は実はそれほどないそうです。
関係者の話を総合すると、北朝鮮からロシアへは武器が輸出されていますが、決して大量ではないといいます。しかもその一部はかつて北朝鮮がロシアから輸入したもので、今になってロシアに買い戻されているものです。
こうした実例からわかるのは、日本人は国際情勢について「自分たちが理解しやすい」ように、あるいは「こうあるべきだ」「こうなってほしい」という言説を信じ込みやすいのではと、私は考えています。
日本のメディアに登場する専門家たちの中には、「アメリカの政府関係者がこう言っていた」と、自説を絶対唯一のように話す人がいます。そうした人はアメリカ中心の分析が正しく、ほかの分析を受け入れませんが、実際にはアメリカの論理や分析だけで世界が回っているわけではありません。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を振り返ると、「戦争はすぐに終わる」「ロシアは諦める」「アメリカや欧州の支援でウクライナが勝つ」といった指摘は、現時点ですべて外れています。
ウクライナ戦争では、「侵略したロシアのほうが悪」であることは間違いありませんが、「その相手がどのように考えたのか」「今後どのように推移するか」といった中長期的な見方を予測したり解釈したりするためには、ことの善悪はひとまず脇に置いて、「なぜそうしたのか」を考える必要があります。
当事国には、それぞれ内在する「論理」があります。それを踏まえて、現状を把握してこそ、国際情勢が見えてくるのです。
そうした分析ツールの1つが「地政学」です。
今回はその地政学的見方と、現在ホットスポットとなっている国・地域を中心に、その内在論理を踏まえた見方・分析を一流の専門家が紹介してくれます。
国際情勢に対して、「どこかもやもやする」と感じている方であれば、その見方の解像度が増して理解も深まることでしょう。
担当記者:福田 恵介(ふくだ けいすけ)
東洋経済 解説部コラムニスト
1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

『週刊東洋経済』は、変化する世の中を確かな視点で解明する総合ビジネス週刊誌です。
創刊は1895年(明治28年)、日本国内で最も歴史のある週刊雑誌でもあります。企業戦略から主要業界事情、国内外の政治経済はもちろん、近年はビジネス実用、テクノロジー、社会問題まで、経済の複雑化やビジネスパーソンの関心の広がりに対応し、幅広いテーマを取り上げています。
一方で創刊以来、一貫しているのはセンセーショナリズム(扇情主義)を排除し、ファクトにこだわる編集方針を堅持することです。「意思決定のための必読誌」を掲げ、今読むべき特集やレポートを満載し、価値ある情報を毎週発信しています。
視野が広がる幅広いテーマ
「健全なる経済社会を先導する」という創刊理念のもと、企業戦略やマクロ経済だけでなく、社会問題や海外情勢など幅広いテーマで特集を組み、中立的な立場で情報発信をしています。
図解や表でわかりやすく
ビジネス誌の中で随一の規模を誇る約100人の記者集団が、「経済から社会を読み解く」スタンスで徹底取材。旬な情報を図解や表にまとめて、わかりやすく解説します。
『会社四季報』の独自データで深掘り
約3,900社の上場企業すべてに担当記者を配置。財務情報から海外進出情報など『会社四季報』ならではのデータベースから独自の切り口で深掘りし、分析した連載や特集を『週刊東洋経済』で展開しています。