特集「喰われる自治体」を担当した野中大樹です。
過疎地の自治体職員を「ぶっちゃけバカ」と見下し、「行政機能をぶんどる」などと豪語する男の音声データを初めて聞いたのは昨年秋のことです。声の主は、地方自治体に地方創生のやり方を説いて回っていた企業の社長(当時)で、総務省の「地域力創造アドバイザー」という肩書も持っていました。
地方創生ビジネスの手口を披露していた時の発言ですが、録音されているとは知らなかったために本音が出たのでしょう。音声データを提供してくれた人は、「自治体を喰い物にしようとする、その考えが許せなかった。こういうコンサルタントは実は山ほどいる。警鐘を鳴らしたかった」と、音声データを提供した理由を語っています。
この10年、政府は膨大な地方創生予算を組んできましたが、「まちの人口が増えた」「創生できた」という話はほとんど聞こえてきません。地方創生マネーはどこに消えたのでしょう。
特集では、地方創生マネーが都会のコンサルに吸い上げられてきた実態を明らかにしました。利用者が増え続ける「ふるさと納税」については、過疎地の自治体に寄付したはずの金が「中間事業者」に流れている構図を摘示しています。
3世代同居が多く「地方創生の模範」とされてきた福井県では、実のところ「嫁」が加重負担を強いられている現実があります。現場取材を通して、家事も仕事も背負い込まされている「嫁」たちの本音に迫りました。
石破茂初代地方創生担当相の「企業版ふるさと納税は見直すべきだ」という直言や、人口減少問題の火付け役である増田寛也元総務相の「自然減対策は完全に失敗だった」という厳しい指摘も刮目です。
特集では一方で、コンサルや補助金に依存せず、自分たちで汗をかいて地域の創生を成し遂げようとする自治体の奮闘劇や、地方創生に本腰をあげる地方銀行、信用金庫の実例も紹介しています。ぜひ、ご覧下さい。
担当記者:野中 大樹(のなか だいき)
東洋経済記者。熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年、東洋経済新報社に入社。現在は統合編集部。