「超・孤独社会」の特集を担当した井艸恵美です。一人暮らし70代の女性を取材しました。女性は60代までは都内の持ち家で暮らしていましたが、ある事情から経済的に困窮し、頼れる家族もいない孤立状態に陥りました。日本では、身寄りのない高齢者が増えています。単身世帯は全体の4割に迫り、子供がいない世帯を合わせると6割に達します。これまで「身寄りがない人」といったら特別な事情を抱えた少数の人たちというイメージでしたが、超高齢社会に突入した日本では、もはや普通です。就職するにせよ、入院するせよ、施設に入所するにせよ、家族の身元保証人を要求する今の社会システムは、限界を迎えつつあるのです。
特集では、家族の代わりに本人の身元保証や見守りをする身元保証ビジネス業界を深掘りしました。社会的なニーズが高まり業者の数は急増していますが、消費者目線では、疑問の残る業者もあります。生前から死後まで安心して任せられるのか。各社の実情を取材しました。
孤独は高齢者だけの問題ではありません。孤独死の4割は20代から50代の現役世代です。給料減少だけでなく深刻な意欲低下を招く役職定年。さらに役職定年世代にも入った就職氷河期世代が今、どのような孤独や夢を抱えているのか。当事者たちの実像を追いました。
孤独と密接な関係があると言われている「陰謀論」にも焦点を当てました。2021年に起きた米国議会議事堂襲撃事件は、「影の政府ディープステートと戦っている」と語るトランプ氏の発言を信じる人々の熱が暴動にまでに発展しました。取材をする前、日本ではまだ深刻な事態に至っていないと感じていましたが、身近なところで恋人関係、家族関係が崩壊の危機に晒される「実害」が生じていました。なぜ、陰謀論が発生し、拡がるのか。その背景にも目を向けました。
ただ、希望もあります。少子高齢化の最先端を走る日本だからこそ、社会的なつながりをもう一度取り戻そうとする動きがあるのです。特集では全国各地の取り組みを紹介しています。ぜひ、お手にとってご覧ください。
担当記者:井艸 恵美(いぐさ えみ)
群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。