特集名から「もしかしたら」と思われる読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、本特集は小誌定番の「すごいベンチャー100」の「中堅企業」版を目指して制作しました。
中堅企業には、これまで売上高が数百億円、従業員数が数百人というざっくりとしたイメージこそあったものの、法律上は明確な定義がなく、中小企業と大企業の狭間で見えにくい存在でした。実際には、国内の設備投資や雇用を牽引する地域経済の屋台骨です。そこに目をつけた国は今年、法律を改正。「中堅企業」について中小企業を除く従業員数2000人以下の企業と定義し、支援策を強化しています。
定義上は国内に約9000社あるとされる中堅企業。その素顔を浮き彫りにできないか、元気な中堅企業から事業を伸ばすヒントを聞きたい、そんな素朴な動機がこの特集の原点です。100社の絞り込みや各社への取材交渉で苦労しましたが、理解ある中堅企業の皆さまのご協力のおかげで何とか特集に結実できました。この場を借りて感謝を申し上げます。
実際に取材をしてみると、突出した技術を軸に国内外の市場を開拓している地方の中堅企業も少なくなく、また元から知っていた企業でも果敢に新しい事業領域に挑戦しているところもあり、発見の連続でした。
工作機械のスギノマシンは、戦時中に工場を大阪から疎開したことが縁となり、富山県が地盤です。国内外5000社を顧客に持ち、赤字は創業来一度もなく、売上高営業利益率が15~20%という高収益性を維持しています。海外売上高が50%を占めるようになった今でも富山での開発・製造にこだわる姿勢に、地域の中堅企業としての誇りと覚悟を感じます。
企業の紹介記事に加え、売上増加率・売上高利益率・初任給・自己資本比率など各指標のランキング、銀行による中堅企業支援の実情、中堅企業の転職事情、産学官キーパーソンのインタビューも掲載しました。通販に次ぐ事業の柱としてスポーツを切り口に地域創生に取り組むジャパネットホールディングスの髙田旭人社長には、1000億円を投じた「長崎スタジアムシティ」の勝算や「やり抜く」経営哲学について聞いています。
今回取材した多くの経営者が立地する地域とのつながりを大事にしながら、自社のアイデンティティや強みをより際立たせることに生きる道、勝ち筋があると考えていました。これは企業規模を問わずに当てはまりそうです。紹介したい中堅企業はまだまだたくさんあり、来年以降もこの特集を定番企画として展開していきたいと考えています。中堅企業の関係者はもちろんのこと、そうでない方にもぜひお手に取っていただきたいです。
担当記者:木皮透庸(きがわ ゆきのぶ)
1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。