特集「自動車大再編時代」を担当した木皮透庸です。
元々は日産自動車単独の特集を予定していましたが、昨年末に突然、日産とホンダが経営統合協議入りを発表。特集の構成を大きく見直すことになりました。
特集の作り手としては、ホンダと日産の今回の動きは、自動車業界における「大再編時代の序章」に過ぎないと考えます。今後は車の販売後にソフトウェアやサービスでどう稼ぐかに競争軸がシフトしていくとの見方が業界では強まっています。この領域はテスラや中国勢が得意とするところ。車両売り切り型のビジネスモデルからの脱却を目指して、既存の自動車メーカーがAIやITなど異業種のプレイヤーをも巻き込んだ合従連衡に打って出る可能性も高まっています。
その中でホンダと日産の双方が統合に活路を見出す背景や、統合に向けた課題を精緻に分析しました。統合の大前提は、日産による生産能力100万台と従業員9000人を削減するリストラ策の実施です。ただ、日産がリストラを行うにしても、米国や中国、東南アジアといった主力市場や主力商品ではホンダとの重なりも大きく、経営のメリットを引き出すためには、戦略の大胆な組み換えが必須となります。そうした幾重ものハードルを踏まえると、統合の実現は正直「五分五分」の厳しい状況にあることを誌面では伝えています。
特集では、ホンダが三菱自動車に関心を寄せる事情や、マレリを筆頭に日産を主要顧客とするサプライヤーの苦境、日産を長く取材してきたジャーナリストの井上久男氏による「社内抗争の歴史」、トランプ政権復活に対するマツダやSUBARUの懸念などの記事も盛り込みました。中国の新興EVメーカーで進む「2極化」についても紙幅を割いています。
住宅を除くと最も高額な消費財と言われる自動車。その世界シェア3割を握るのが日本車です。製造業の雄として日本経済を牽引してきました。競争のルールや相手も変わる中で今後もその存在感を保ち続けることができるのか。「ホンダ・日産」の経営統合協議の行方も含め、我々は今後も業界の動きを追いかけていきます。自動車業界の関係者はもちろんのこと、そうでない方にもぜひお手に取っていただきたいです。
担当記者:木皮透庸(きがわ ゆきのぶ)
1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。