巻頭特集「介護 大格差」を担当した印南志帆です。今年2025年には、「団塊の世代」のすべてが75歳以上の後期高齢者になりました。それに伴い介護が必要な人も増えていくことになりますが、それを支える介護保険制度は崩壊の危機にあります。取材をしていて、もはやすべての高齢者に必要なサービスは行き届かない状況になっていると感じました。今60代の私の親が介護を受けるとき、果たしてこの制度は保険として機能しているのでしょうか。
とくに厳しい状況にあるのが、ヘルパーさんに自宅に来てもらう訪問介護です。自宅での介護は、日本人の6~7割が希望しているとの調査もあります。ただ、それを支える訪問介護事業者の倒産件数は2024年に過去最多を更新しました。訪問介護は、車や自転車で一軒一軒自宅を回り、1対1で利用者にサービスをします。専門性が求められるハードな仕事にもかかわらず給料は安く、人はなかなか集まりません。収入源は3年に1度改定される介護報酬ですが、直近の2024年度の改正で、訪問介護は2%超のマイナス改定に。厚生労働省の調査によれば、6割の事業所が減収になったといいます。大手の介護事業者の中には、不採算な訪問介護の出店計画を見直したり、単価が低いサービスを「断る」動きもあります。訪問介護の事業所が不足する「空白地帯」も広がっています。そうなれば、家族の介護負担が増えて離職につながったり、介護施設に入る余裕がない高齢者は自宅に放置されることになります。
特集ではほかにも、未曾有の人手不足に立ち向かう大手介護企業の動向、逆風の介護業界での「高収益企業」ランキング、仕事と介護の両立の秘訣、親を安心して任せられる「看取り」に強い有料老人ホームリストなど、盛りだくさんな内容で介護の「今」に切り込んでいます。親の、自分の介護の行方が気になる方は、必読です。
担当記者:印南 志帆(いんなみ しほ)
早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。