特集「崖っぷちのDX」を担当した二階堂です。
先日、ある私鉄会社の特急チケットをネットで購入したときのこと。あいにく人身事故で運休となり、スマホで払い戻し方法を確認したところ、キャンセル手数料が発生するとの表示がありました。
運休なのに手数料を払うのは変だなと、いったん思いとどまり、一日の予定を終えた後に駅の窓口で聞いてみたところ「そのキャンセルボタンは押してはダメですね」と駅員の方は説明。ではいつ返金されるのか、返金完了の連絡はあるのでしょうか?と再度聞くと、分厚いファイルを参照しながら数分間をかけて、「わかりません。メールは来ないと思います」とのことでした。
やり取りを続けた最終的な結論は、「券売機で買ってもらえば対応できるんですけどね…」。顧客の利便性を高めるためにオンラインチケットサービスを運営しているでは?という言葉を飲み込み、帰路に就いたことを覚えています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)という用語は、データや技術を活用し、業務そのものを変革することを指します。レガシー化した基幹システムの場合、保守期間終了や複雑化に伴うリプレースを起点に着手する企業が多いですが、実際に業務を実行する側の理解がないままDXプロジェクトが開始されることが問題視されています。
オンラインチケットにしても、鉄道会社が周辺機能を含めたシステム刷新の一環で行われているものだと想像されますが、現場のオペレーションがついてこなければ本来のDXとは言えません。レガシーシステムからの脱却という「守りのDX」ができても、利用者のデータ蓄積やそれらをAIで解析・活用した新規事業の開発などを進められなければ、「攻めのDX」は実現できないでしょう。
IMD世界競争力センターの調べでは、日本のデジタル競争力は世界で31位、「デジタル/技術的スキル」が最下位の67位となっています。仏作って魂入れず――ということにならない日本のDXが増えることを願います。
担当記者:二階堂 遼馬(にかいどう りょうま)
解説部記者。米国を中心にマクロの政治・経済をカバー。2008年東洋経済新報社入社。化学、外食、ネット業界担当記者と週刊東洋経済編集部を経て現職。週刊東洋経済編集部では産業特集を中心に担当。