本書に収められている8つの論文が実証的に明らかにしていることは、大震災直後に政策当局を中心に「認識されていたこと」と、「現実のありよう」との大きなギャップである。大震災直後に影響が甚大だと思われていたことが、実は軽微であり(たとえば、阪神淡路大震災の建物被害をはるかに凌駕すると考えられたが、実はそれと同程度であった)、逆に直後には影響が軽微だと思われていたことが、実は甚大であった(たとえば、便乗値上げによる価格調整が軽微であった背後で深刻な数量調整が生じていた)という震災直後における状況把握の深刻な失敗である。
本書では、震災直後に国内外で積極的に評価されたさまざまなレベルの協調行動が、実はそうした実態を伴っていなかったことも明らかにされている。地方自治体は、利害対立が協調行動にまさり、復興プロセスの障害となった。また、「絆」という言葉の広範な流通が象徴的に示しているように、人々の間で利他的な行動が大震災後に広まったように思われていたが、実は、利他的な意識が低下していた。
本書では、そうした認識と実態のギャップを丁寧に分析することによって、ギャップをもたらした要因を明らかにしていく。震災直後に実態を誤って認識したことは、当然ながら、適切な復興政策の履行を妨げた。今般の大震災の経験を掘り下げて考察することは、将来の自然災害への適切な対応のあり方を検討する上で必要不可欠な作業であろう。