金融恐慌 1907

米FRB創設の起源とJ・P・モルガン

ロバート・F・ブルナー著/ショーン・D・カー著/雨宮 寛訳/今井 章子訳
2016年7月29日 発売 在庫なし
定価 3,080円(税込)
ISBN:9784492444290 / サイズ:四六/上/424

『The Panic of 1907』の日本版(邦訳は『ザ・パニック――1907年金融危機の実相――』)が2007年に出版された。本書はそれを復刊したものである。大恐慌とくれば1929年大恐慌が有名だが、1907年の金融危機はその危機の広がりや不況の深さにおいて1929年に勝るとも劣らぬものだった。
 またノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンが述べているように、1907年金融危機は2007年のサブプライム金融危機と非常に類似している。2007年危機と同様に、1907年危機も米国が震源の世界恐慌であったこと、資産価値のバブル的な上昇ではなく複雑な金融商品が危機の引き金であったことなどが主な理由だ。いまでもサブプライム金融危機の後遺症に苦しむ世界経済だが、1907年の経験から多くの教訓を得られることは間違いない。
 しかし残念なことに、1907年金融危機の状況を伝える著作や資料は多く残されていない。1929年の大恐慌についてはジョン・ケネス・ガルブレイス著『バブルの物語』、F・L・アレン著『オンリーイエスタディー』、ゴードン・トマス、マックス・モーガン=ウィッツ共著『ウォール街の崩壊』など多数の名著があるが、それとは好対照だ。
 本書では、1907年の金融恐慌が起きた背景、そしていかに1つの金融機関への取り付け騒ぎが瞬く間に別の金融機関に飛び火し、野火のようにウォール街全体をなめつくす勢いで広がっていったかを、数日の動きを克明に追うことによって紙面上で見事に再現している。同時に、「私が危機を終わらせる」と宣言して獅子奮迅の働きをした伝説的な銀行家、J・ピアポント・モルガンの活躍ぶりも並行して記されている。彼は3週間の間に、彼の会社JPモルガン商会と彼の金融王としてのネットワークを駆使して、キャッシュ不足に陥った金融機関を次々と救済し、破綻直後のニューヨーク市を救い、ついにはその宣言通りに危機を終結させたのである。
 本書は様々な読み方ができる。まず、アメリカの金融史、あるいはアメリカの金融制度論として読める。また1907年金融恐慌の詳細なドキュメントとして読むこともできる。さらに金融恐慌の要因を分析した金融恐慌論としても可能だ。サブプライム危機との比較で読むこともできる。
 本書は1907年の金融危機の詳細なドキュメントである。そこに含まれている教訓は今でも生きている。「大規模な金融危機は、投資家や預金者が警戒心をもって反応してしまうような独特な力、つまり、市場を襲う完璧な嵐(パーフェクト・ストーム)と呼ぶにふさわしいエネルギーが一点に集中することによって発生する」という指摘は傾聴に値する。現在の世界経済の状況を見ると、金融パニックはいつ起きてもおかしくないのではないかと思わざるを得ない。

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概要

「1907年の大恐慌」は米中央銀行制度発足の原点。本書はその古典的名著である。

目次

解説
日本版によせて
謝辞
プロローグ
はじめに
第1章 ウォール街の支配者たち
第2章 金融システムへの衝撃
第3章 「静かなる」暴落
第4章 やせ細る信用
第5章 富と名声を求め続けた銅の王者
第6章 買い占めと引き締め
第7章 ドミノ倒し
第8章 最後の貸し手、資金決済機構
第9章 ニッカーボッカー信託会社の繁栄と陰り
第10章 社長の不信任投票
第11章 古典的な取り付け騒ぎ
第12章 「支払い能力はあるのか」
第13章 アメリカ信託会社の絶体絶命
第14章 証券取引所の危機
第15章 渦中のニューヨーク
第16章 興奮のるつぼ
第17章 二〇世紀のメディチ
第18章 迅速かつ徹底的な救済
第19章 絶望からの脱出
第20章 後世への遺産
教 訓 「完璧な嵐」を生み出す七つの要素
一〇〇年後の考察 二〇〇七年サブプライム危機との類似
付録A 主要人物のその後
付録B 用語解説(定義)
訳者あとがき
参考図書
参考文献
人名索引
社名索引
事項索引
著者紹介

著者プロフィール

ロバート・F・ブルナー  【著】
ろばーと F ぶるなー

企業金融、M&A、新興国市場投資など幅広い分野で研究論文を発表。著書のApplied Mergers and AcquisitionsやDeals from Hellはともにワイリー社から出ている。指導法や教材開発で広く認められており、米『ビジネスウィーク』誌はブルナーを「MBA講座の達人」の一人に挙げた。 1982年より、バージニア大学ダーデン経営大学院教授。イェール 大学、ハーバード大学ビジネススクール卒業(修士課程および博士課程修了 )。


ショーン・D・カー  【著】
しょーん D かー

バッテン研究所は、企業イノベーションや起業家精神におけるリーダーシップ思考の養成に力を入れる寄付研究機関。その新規ベンチャーおよび企業財務における研究は、ケーススタディ、デジタルメディア、教材などの開発に貢献しており、ケーススタディには受賞歴も多い。10年以上の経験を持つジャーナリストで、CNN や ABC ニュース(ピーター・ジェニングズの World News Tonight)でプロデューサーとして活躍した。作家・研究者として、数多くのビジネス関連書に執筆。ノースウエスタン大学卒業。コロンビア大学大学院修士課程修了。バージニア大学ダーデン経営大学院修士課程修了。

雨宮 寛  【訳】
あめみや ひろし

コロンビア大学ビジネススクール経営学修士およびハーバード大学ケネディ行政大学院行政学修士。クレディ・スイスおよびモルガン・スタンレーにおいて資産運用商品の商品開発を担当。2006年コーポレートシチズンシップを創業。DWMアセット・マネジメント日本代表。明治大学公共政策大学院兼任講師、法政大学現代福祉学部兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。CFA協会認定証券アナリスト。共訳書に、ピエトラ・リボリ著『あなたのTシャツはどこから来たのか?』、ロバート・ライシュ著『暴走する資本主義』『余震』『格差と民主主義』、レスリー・スコット著『ジェンガ 世界で2番目に売れているゲームの果てなき挑戦』(以上、東洋経済新報社)など多数。

今井 章子  【訳】
いまい あきこ

ハーバード大学ケネディ行政大学院行政学修士。英文出版社にて外交評論誌の編集に携わる。ジョンズホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所客員研究員、東京大学法学政治学研究科客員研究員等を経た後、政策シンクタンクにて提言などの国内外への広報、海外専門家との政策対話、CSR研究、グローバルな政策人材育成事業などに従事。現在、昭和女子大学ビジネスデザイン学科特命教授として、グローバル化による諸課題や女性のリーダーシップの在り方などにについて研究している。共訳書に、ピエトラ・リボリ著『あなたのTシャツはどこから来たのか?』、ロバート・ライシュ著『暴走する資本主義』『余震』『格差と民主主義』、レスリー・スコット著『ジェンガ 世界で2番目に売れているゲームの果てなき挑戦』(以上、東洋経済新報社)など多数。