週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2022年12月10日号
2022年12月5日 発売
定価 750円(税込)
JAN:4910201321223

【特集】武器としての名著


感染症や戦争はいまだ収束の兆しを見せず、世界は混迷のまま2023年を迎えようとしています。そんな今こそ、古典的名著をひもとく好機です。時に何百年、何世紀も前に書かれた作品もあり、言葉遣いや文化の違いから必ずしも読みやすいとは言えません。ただ内容の本質さえ読み解けば、文章はたちまち色彩を帯び、現代の私たちの一助となります。本特集では第一線の研究者や経営者などを「水先案内人」に、今読むべき名著を紹介していきます。名著・古典の知見が血肉になれば、それは人生の武器になるはずです。
1/31セミナー資料は、こちら

担当記者より

特集「武器になる名著」を担当した印南志帆です。みなさんが、人生の中でじっくり名著と向き合った時期はいつですか。私はといえば、高校時代です。高校2年生の国語の教科書に載っていた夏目漱石の『こころ』。作中の「私」が「K」に対して言い放った「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という言葉がなぜKを自殺へと至らしめたのか。クラスメイトとあれやこれやと論じあったのが懐かしく思い出されます。

この『こころ』を始めとした近現代の小説を扱う授業がこれから、学校によって大幅に縮小、あるいは消えようとしています。今年度からスタートした新しい学習指導要領の下で、国語の科目再編がなされたからです。企画書やレポート、法令などの「実用的な文章」を新たに取り入れた結果、文学作品を扱う時間が縮小。私が取材をした学校の先生は口をそろえて「文法など教えることが多い古典を優先していると、小説にまわす時間がない」と頭を抱えていました。科目の選択によっては、2年、3年生の間まったく小説の授業がない学校も出てきます。

実用的な文章を読みこなすスキルを社会に出る前から身につけておくのが重要であることは確かです。かといって、今回のような教育改革はバランスを欠いていないでしょうか。特に長い間読み継がれてきた古典的な名著は普遍的なテーマを扱っていることが多く、今を生きる私たちの思わぬ「武器」になりうるからです。

特集「武器になる名著」では、戦争、感染症、国際情勢、日本経済などで混迷を極める今こそ読むべき名著を厳選して紹介しています。『カラマーゾフの兄弟』『韓非子』『大衆の反逆』『自由論』などの名著がどう現代とリンクするのか、第一線の研究者や経営者が読み解きます。その言葉の力を直に感じていただくため、原文に触れるコーナーも用意しています。

日頃は仕事に直結する情報収集が中心だという忙しい読者のみなさんも、この年末年始のお供に古典を一冊手にとってみてはいかがでしょうか。

担当記者:印南 志帆(いんなみ しほ)
早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
武器としての名著
戦争、感染症、ポピュリズム… 混迷の時代を読み解く名著

PART1 今読むべき5冊
プーチンが政治利用するドストエフスキー
『カラマーゾフの兄弟』で読むウクライナ戦争
名古屋外国語大学 学長 亀山郁夫

[インタビュー]軍事アナリスト 小泉 悠
『戦争論』が説く ウクライナ善戦の背景

神頼みの一方で、「密」の回避も
『小右記』に見る1000年前の疫病対策
国際日本文化研究センター 教授 倉本一宏

習近平が魅入られた冷徹非情な政治哲学
『韓非子』から考える現代中国の行く末
早稲田大学 教授 柿沼陽平

岩波文庫 累計発行部数ランキング

オルテガの言う「最悪の大衆」は私たちだ
『大衆の反逆』が鋭く問う 現代の民主主義
東京大学 教授 宇野重規

[コラム]古典を読む意義は「生活に不要」だから
翻訳家 イザベラ・ディオニシオ

明治5年に中村正直が翻訳した意図とは?
『自由論』の思想は日本に定着しなかった
思想家 内田 樹

PART2 「あの人」が薦める名著
冨山和彦×『君主論』マキアヴェリ
星野佳路×『国富論』アダム・スミス
田中優子×『日本永代蔵』 井原西鶴
出雲 充×『論語と算盤』 渋沢栄一
川村 隆×『言志四録』 佐藤一斎

[インタビュー]ライター、ブロガー レジー
会社員を侵食する「ファスト教養」

PART3 読書の手引き
[インタビュー]「100分de名著」プロデューサー 秋満吉彦
「わかった気」になる入門書にはご注意

あなたに最適の名著が見つかる 古典入門の「最強ギア」
1 ネットラジオを聴くだけ
2 書評YouTubeで学ぶ
3 読書会で新たな視点を得る

いきなりカントを読んでも理解できない
挫折しない哲学入門 「学び順」にはコツがある
玉川大学名誉教授 岡本裕一朗

「実用」重視で迷走する国語教育
漱石『こころ』を学ばない高校生

幼稚園で驚異の古典教育
4歳児が『論語』『奥の細道』を音読
フリーライター 吉岡名保恵

8つのテーマで一挙紹介
古典ブックガイド 厳選40冊
京都大学 名誉教授 鎌田浩毅

ニュース最前線
円安なのに相次ぐ下方修正 電子部品が陥ったわな
顧客本位の原則をルール化 金融庁方針に広がる波紋
北朝鮮のやまないミサイル 「娘」の帯同に透ける意図


連載
|経済を見る眼|大型の補正予算はなぜ常態化したのか|佐藤主光
|ニュースの核心|防衛費「2%」目標を自己目的化するな|西村豪太
|発見! 成長企業|日本ビジネスシステムズ
|会社四季報 注目決算|今週の4社
|トップに直撃|ライオン 社長 掬川正純
|フォーカス政治|「緩やかな多党制」が現実的な選択肢|塩田 潮
|中国動態|3期目の習外交、協調関係を演出|富坂 聰
|財新 Opinion&News|米ファストファッション「GAP」が中国撤退
|グローバル・アイ|サッカーW杯が映し出す「世界経済の変化」|ジム・オニール
|Inside USA|「賢いトランプ」をリーダーに、再編探る保守思想|会田弘継
|FROM The New York Times|アマゾンが1万人リストラ 蘇る「ITバブル崩壊」の悪夢
|マネー潮流|「眠れる獅子」中国経済の始動は近いか|中空麻奈
|少数異見|中国との付き合い方を世界に示せるのは日本
|知の技法 出世の作法|ヴァルダイ会議におけるプーチン大統領の発言④|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|憲法の健康権条文は人々の健康を改善するか|松浦広明
|話題の本|『祈り』著者 藤原新也氏に聞く ほか
|シンクタンク 厳選リポート|
|PICK UP 東洋経済ONLINE|
|編集部から|
|次号予告|