特集「すごいベンチャー100 2025年最新版」を担当した木皮透庸です。
恒例のベンチャー特集も今年で10年目。ユニークなビジネスモデルや先進的な技術を持つスタートアップから100社を厳選しています。今年の特徴は、事業のどこかでAIを活用する企業が多数を占めた点です。加えて、冠婚葬祭やストックオプション業務、建設など特定業界の課題に特化した「バーティカルSaaS」の存在感も一段と高まっています。
国内スタートアップは2万5000社を超え、裾野は広がっていますが、資金調達環境は依然として厳しいままです。特に成熟期では、競争力のある企業が大型調達を実現する一方、資金繰りに苦しむ企業も少なくありません。
今後は東証グロース市場改革の影響も大きくなります。2030年以降は「上場後5年で時価総額100億円以上」へと上場維持基準が引き上げられます。実質的には「上場基準の厳格化」ともいえ、IPO(新規株式公開)にこだわらず、M&Aによるイグジット(出口戦略)を模索するスタートアップが増えています。イグジット長期化を見据え、マーケティング強化や老舗事業会社の買収などを通じて競争力を磨く各社の取り組みを取材しました。
創業からわずか1年で日本最速のユニコーン(評価額10億ドル以上)となったSakana AIの伊藤錬COOにもインタビュー。スピード感ある事業展開の背景や、三菱UFJ銀行と組んで進める「融資判断の自動化」におけるAI活用の実態を伺いました。
さらに「悩める国産ユニコーン」では、評価額10億ドルを超えながら成長の壁に直面する企業群を取材。国が掲げる「ユニコーン100社」という目標の正当性が問われています。このほか、「オルツの不正会計問題」に関する記事や最新の「評価額・調達額ランキング」も掲載。起業家、VC、CVC、証券会社の関係者への取材を基にした「ホンネ座談会」では、資金調達やイグジットをめぐる本音から業界の今が垣間見えます。
明暗が交錯し、「踊り場局面」ともいわれる日本のスタートアップ業界。真の成長力を武器に未来を切り拓いてほしい――。そんな思いを今年のベンチャー特集には込めました。スタートアップ関係者はもちろん、そうでない方にもぜひ手に取っていただきたいです。
担当記者:木皮透庸(きがわ ゆきのぶ)
1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。ベンチャー特集では2024年と2025年の編集責任者を務める。