担当記者より
特集「ガバナンス地獄」を担当した山田雄一郎です。電機業界担当でもないのに、東芝の総会取材に行ってきました。経産省と一体となって海外投資家に圧力をかけた「圧力問題」に質問が集中するのでは、と期待したからです。
ところが質問に立った株主は職場の悲惨な現実を次々と綱川智社長に訴えていました。直訴したのは皆、社員株主です。
「早期退職の募集に応じなかった社員は『業務センター』という追い出し部屋に押し込められます。業務センターから巨大倉庫に派遣され、輸入化粧品の仕分けやラベルの貼り替えをさせられています」
「『解雇無効』の最高裁判決が出て、復職できることになりましたが『あなたは健康診断を受けていないから』と門の中に入れてもらえません。復職を妨害しないでほしい」
「イノベーション活動で表彰されたのに技術職を奪われました。その後に退職強要が始まり、反省文の書き直しを命じられる毎日。最終的には解雇されました。解雇の撤回をお願いします」
綱川社長に指名された労務担当役員の回答はそれぞれ次のようなものでした。
「業務センターは6月末に廃止。職場に配属し直します。誠心誠意、対応していきます」
「厚労省のガイドラインに基づいた対応をしています」
「『解雇は有効』と高裁で認められ、最高裁で昨年6月に上告が棄却されています」
株主への圧力問題を受けて、取締役会議長の永山治氏は総会で事実上解任されました。自業自得の面は否めません。東芝のコーポレート・ガバナンスはガタガタです。でもそれ以上に社員の心の荒廃が心配です。相次ぐ事業撤退、早期退職募集の影響は甚大なようです。
東芝のように、ガバナンスが機能していないと株主も社員も地獄を見ることになるようです。
一方でガバナンスの強化は決して容易ではありません。経営者にとってそれは地獄の苦しみかもしれません。特集は主にこっちの地獄のことを書いています。ぜひお手にとってお読みいただけたらと思います。
担当記者:山田 雄一郎(やまだ ゆういちろう)
東洋経済記者。1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。
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