週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2022年3月26日号
2022年3月22日 発売
定価 730円(税込)
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【特集】工場が消える


メーカーの海外進出に伴って空洞化してきた日本各地の製鉄所や造船所、コンビナートは、脱炭素をきっかけにいよいよ最後の閉鎖ラッシュに入りました。ものづくりの基盤が縮小することは、「輸出立国」という戦後日本の発展モデルを根本から揺るがしています。

トヨタと日本製鉄のバトルに象徴されるように業界の秩序も激変しています。日本の製造業はEVシフトやデジタル化の戦いを勝ち抜いていけるのか。徹底した現場取材で描きました。

担当記者より

特集「工場が消える」を担当した山田雄大です。特集が校了した今もなお、頭の中はもやもやしています。

本特集では、日本の基幹産業たる製造業、特に重工長大産業の国内製造(工場)に強まる逆風の構図を描いています。この先、工場閉鎖ラッシュがやってくる、と。そうなれば、製造業、特に特定の大規模工場への依存度が高い地域経済にとって大打撃となります。特集で取り上げた和歌山県の仁坂吉伸知事は「地元に死ねというのか」と反発しています。地域エゴと片付けていいとは思いません。似たような構図は日本のあちこちで増えていくでしょう。

地方も生き残りに知恵を絞っています。和歌山県はIR(カジノを含む統合型リゾート)の誘致に積極的ですが、知事は「あれ(IR)、横浜や東京、大阪だったら手を出しませんね。和歌山だから手を出しているんです。私だって賭け事は嫌いなんですよ」と苦しい胸の内を語ってくれました。和歌山県有田市の望月良男市長からは「テーマパークはどうだろう?」「誘致できそうな企業はないかな」と逆取材されました。

一方、企業を責めることはできません。経営の視点に立てば、日本での生産が成り立たなくなるのであれば、痛みを恐れて工場閉鎖を決断できないほうが傷を深くします。市場が海外中心なら現地生産へシフトするのも当然です。「もの作り」そのものからサービスやソリューションに軸足を移していく必要もあるでしょう。

経営者も悩んでいます。5年ほど前、自動車メーカーのトップは「ウチに何かあると(地元の)●●県はどうなるのか。簡単に国内生産を減らして海外シフトをするわけにはいかない」と率直に語ってくれました。続けて「A社さんなら××県、トヨタ(自動車)さんになると日本、地域社会に対する責任をみんな真剣に考えているんだ」と。

閑散とした商店街、色褪せた看板のスナック、地方の工業地帯に行くとどこでも同じような光景に出合います。かつて製造業が輝いていた昭和の時代に取り残されたような街並みの奥にも、そこに暮らす人たちがいます。理不尽な現実にどう折り合いをつければよいのか、その答えを探る取材はまだまだ続きそうです。

担当記者:山田 雄大(やまだ たけひろ)
東洋経済 解説部コラムニスト。1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
工場が消える

PART1 崖っぷちの製造業
行き詰まる輸出立国 製造業を襲う "新六重苦"
[インタビュー] 「構想力の欠如が製造業を没落させた」 日本総合研究所会長 寺島実郎
工場閉鎖が突きつける地域経済の袋小路 市内生産の9割消失 和歌山・有田の苦悩
[インタビュー]「閉鎖は仕方ない、でも雇用を守ってほしい」和歌山県知事 仁坂吉伸
下関 3度目の港湾リゾート再開発 地域活性化の厳しい現実
自由に使える「打ち出の小づち」か 産業誘致難しく、進むふるさと納税依存

PART2 製造業の針路
<自動車>EV化が揺るがす国内生産 脱エンジン最前線の試練
<電池>中韓勢の巨額投資に勝てるか 車載電池 国内生産の高い壁
<鉄鋼>トヨタ・日鉄バトルの深層 日本の鉄が生き残る道
<石油化学>川崎臨海部を脱炭素拠点に コンビナートは変われるか
[インタビュー]「脱炭素でコンビナートは変わる」国際大学 副学長 橘川武郎
<造船・重工>頼みの綱は水素、CCUS 止まらない造船業の縮小
<半導体>シリコンアイランドは再興できるか TSMC 1兆円投資の夢と不安
デジタル化の波に沈む 日の丸テレビ 敗戦が示す教訓
事業売却でかつての本拠地も放出 原点の“小屋”移設 日立の選択
ものづくり依存度・衰退度ランキング

緊急インタビュー
S&Pグローバル副会長 ダニエル・ヤーギン
「エネルギー市場の混乱は過去の石油危機を超える」


産業リポート
ソニー×ホンダが狙う「本当の果実」
2社での新車開発・販売がゴールじゃない スマホで見いだした"勝ち筋"を再び

ニュース最前線
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木材価格はさらに上昇か ウクライナ危機が呼ぶ波紋
アマゾンが頼る物流の黒子 同業の買収に動いた必然


連載
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|トップに直撃|Sansan 社長 寺田親弘
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|Inside USA|対ロシアで一致する米テック 最終兵器はクラウドの停止|瀧口範子
|FROM The New York Times|米ホワイトハウスが懸念する 「暴走プーチン」次の一手
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