週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2022年5月14日号
2022年5月9日 発売
定価 730円(税込)
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【第1特集】欧州動乱史

ロシアのウクライナ侵攻はなぜ起きたのでしょうか。なぜこの戦争は終わらないのでしょうか。王制から民主制へ、国民国家の成立、2つの世界大戦とその後の東西冷戦、ソ連の崩壊からEUの成立まで。歴史を知ることで新たな未来が見えてきます。

本特集では、ロシアとは長く複雑な関係にあるウクライナをめぐる地政学と、ビスマルク、スターリンなど協調と戦乱の欧州200年史から、世界の「今」を読み解きました。緊急リポートは「円安事変」。資源高騰と金利差拡大で円の独歩安が進む現状と今後の見通しを描きました。
 

【第2特集】科学技術「退国」ニッポン


政府は「科学技術立国の実現」を掲げ、「10兆円ファンド」を打ち出す。低迷する研究力は向上するか。
 

担当記者より

特集「欧州動乱史」を担当した長谷川隆です。ロシアによるウクライナ侵攻はなぜ起きたのか。それを地政学と欧州近代史と絡めながら考察できないかとの発想から、特集をつくりました。

現代のロシアを考えるとき、興味深いアンケートがあります。独立系調査機関「レバダセンター」は定期的にロシア市民を対象に、「ロシア史上、いちばん偉大な人物」をアンケートで尋ねていますが、直近である2021年の調査で1位だったのは、39%が支持したスターリンでした。以下、レーニン30%、プーシキン23%、ピョートル大帝19%、プーチン15%と続きます。

ロシア以外の外国人からすれば、なぜスターリンが? と思います。何しろ、強制収容所に送ったのは1800万人。スターリンの粛清によって亡くなったのは、800万人とも1000万人ともいわれています。そんなスターリンがなぜ権力を維持できたのか。

慶応大学の横手慎二名誉教授(ロシア政治外交史)が寄稿してくださった記事の中で、スターリンが皇帝のような地位を確立できた理由について、主に3つの理由を挙げています。

①第2次世界大戦でのドイツとの戦いに全身全霊をかけ、国民に多大な犠牲を強いながらも勝利したこと。②社会主義革命で生み出された国家の指導者であるにもかかわらず、愛国心を鼓舞したこと。③スターリンが強引に発展させた重化学工業によって戦争継続が可能になり、国民はその政治指導が適切であったと考えるようなった、です。戦後、ソ連が米国と並ぶ超大国になったことも、スターリンの権威性を高めることにつながりました。

一時的に人気が落ちたこともあるスターリンですが、プーチン時代になって、再び人気が出ています。多くのロシア国民にとって、多少の欠陥があっては国家を導いてくれる強い指導者を支持する心情は変わらないということでしょうか。スターリンの人物像と、その功績と罪過は、現代ロシアを理解するうえでも示唆的です。

特集では、フランスの繁栄を導いたナポレオン3世(初代ナポレオンのおい)、ドイツ統一を実現した鉄血宰相・ビスマルクなど、欧州近代を代表する政治家の人物伝や、世界で初めての国家総力戦であった第1次世界大戦がもたらしたもの、欧州の王家の盛衰など、欧州近代の200年を概観できる記事をそろえました。

19世紀と20世紀の欧州大陸では、革命と戦争が繰り返されました。そして21世紀に入った現代でも戦乱が続いています。歴史を振り返りながら、現代を考えるヒントになればと思います。

担当記者:担当記者:長谷川 隆(はせがわ たかし)
東洋経済記者。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

第1特集
欧州動乱史

PART1 ウクライナの地政学
ウクライナ侵攻はなぜ起きたか、なぜ戦争は終わらないのか 欧州200年史の帰結だ
『13歳からの地政学』著者が教える地政学 「地理」が規定する行動様式 田中孝幸
世界史講師が教えるウクライナ ロシアとは長く複雑な関係 福村国春
ロシアとどう対峙するか 独、ポーランドは軍備増強へ
欧州200年の歴史を知る映画12選

PART2 協調と戦乱の歴史
「9」で見る 欧州の歴史 東西の対立で見る欧州 的場昭弘
ナポレオン3世| 独裁下でも自由主義を推進 「繁栄と没落」の皇帝人生 野村啓介
ビスマルク|ドイツ統一の立役者 鉄血宰相による戦争と平和 飯田洋介
スターリン| 収容所送りは1800万人 冷酷な独裁者の光と影 横手慎二
第1次世界大戦 死者1000万人の惨劇 戦争は国家総力戦の時代に 木村靖二
「倒すか倒されるか」の独ソ戦 妥協なき「世界観」戦争 大木 毅
ソ連「東側の盟主」はなぜ滅んだか 社会主義国家の教訓 松戸清裕
欧州を支配した 王家の盛衰 君塚直隆

緊急リポート
130円台突入に戦々恐々の日本経済 円安事変
円の独歩安招いた経常赤字 怖いのは家計が動くとき 唐鎌大輔
「円安メリットは過去の話"円買い介入"は難しい」 元財務官 榊原英資

第2特集
科学技術「退国」 ニッポン
科学技術研究の金をめぐる行政vs.国立大学の攻防
運用で年3000億円捻出 10兆円ファンドのギャンブル
「ファンドには賛成だが援対象は広げるべき」 国立大学協会 会長 永田恭介
「リスクを取りながらリターンを上げていく」 科学技術振興機構 運用業務担当理事 喜田昌和

連載
|経済を見る眼|資源高と円安による物価上昇への対応方法|小峰隆夫
|ニュースの核心|混迷が深まる世界経済、日本がなすべきは何か|中村 稔
|発見! 成長企業|網屋
|会社四季報 注目決算|今号の4社
|トップに直撃|ロイヤルホールディングス 社長 阿部正孝
|フォーカス政治|平和国家の岐路となる安全保障論議|山口二郎
|中国動態|iPhoneの生産移転に危機感|田中信彦
|財新 Opinion &News|ファーウェイ「創業者長女」が会社の顔に昇格
|グローバル・アイ|プーチンが覚醒させるEU 統合深化へ「黄金のチャンス」|フィリップ・ レグレイン
|Inside USA|加速する米の台湾有事シフト 遅れたウクライナ支援の教訓|ジェームズ・ショフ
|FROM The New York Times|マッキンゼーがひた隠す 製薬企業への「利益誘導」
|マネー潮流|米国金融引き締めとイールドカーブ|木内登英
|少数異見|変わる戦争と変わらない悲惨な現実
|知の技法 出世の作法|ウクライナ侵攻の帰趨はドネツク州の戦闘で決まる|佐藤 優
|経済学者が読み解く 現代社会のリアル|夫婦間取引のカギ 妻の「交渉力」は上昇傾向|小原美紀
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