週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2023年1月28日号
2023年1月23日 発売
定価 750円(税込)
JAN:4910201340132

【特集】NHKの正体


多くの国民から蛇蝎のごとく嫌われているNHKの受信料制度は、なぜかくも強固なのでしょうか。若者からは「強制サブスク」と揶揄されながらも温存され、それどころか増強までされている「受信料ビジネス」の背景には、政治との持ちつ持たれつの関係があります。本特集では新たに浮上した「ネット受信料」の行方、まるで投資ファンドかのように急膨張している金融資産、活かされなかった31歳記者の過労死の教訓、若手からベテランまで不満爆発の人事制度改革など、ぬえのような存在の巨大公共放送を徹底解剖しました。

担当記者より

特集「NHKの正体」を担当した野中大樹と申します。
「今月のPV(ページビュー)は2億5千万を超えそうだ」。昨年12月、渋谷のNHK本館2階にある報道局が湧いていました。
サッカーW杯の速報が、ニュースサイト「NEWS WEB」の閲覧数を稼いだのです。

内部資料によると、同サイトの月次平均PVは2021年度の2.4億に比べ、22年は1.8億と低調でした。そこにきてW杯の盛り上がりが「特需」となったのです。

今、NHKはNEWS WEBや「NHKプラス」をはじめとするインターネット事業に力を入れています。前田晃伸・前会長が掲げた人事制度改革の一つの柱として、22年春からは「デジタル職員制度」を導入。コンテンツのデジタル化を進めるため、社内外からデジタル業務に特化した職員を集めています。

現在デジタル職員は約100人に上り、今後も増員する方針です。昨年11月、報道局長が報道局員に送ったメッセージにはデジタル職員制度の目的について「NHKのデジタルサービスを加速的に成長させ、未来のNHKを形づくること」と記されていました。

総務省の公共放送ワーキンググループでは、NHKのネット事業を補完業務から本来業務へと格上げする議論が進んでいます。今年6月にも議論を終え、放送法改正への道筋が敷かれることになります。

放送と通信の融合は時代の必然。NHKがネット事業に本格進出するのは必要なことでしょう。

他方、NHKには受信料という他メディアにはない収入源があります。テレビを保有する国民は番組をみようが見まいが、NHK受信料を支払わなくてはなりません。その理由をNHKは「公共放送だから」と説明してきました。

ネット事業が本来業務となった暁には、NHKは「ネット受信料」の導入を模索しています。NHKのいう公共の範囲が、通信の世界にも拡がるのです。

それは私たちの生活に、そしてメディア環境に何をもたらすのか。

特集では、放送法改正ありきでデジタルファーストを加速化させ、「公共」を錦の御旗に掲げながら「ネット受信料」という新たな収益源確保に動くNHKのしたたかな戦略を明らかにします。

さらに、公共放送でありながら8600億円もの金融資産をため込んでいる現実や、職員の過労死が立て続けて起きている実態にも迫ります。

担当記者:野中 大樹(のなか だいき)
東洋経済 記者
熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年、東洋経済新報社に入社。現在は統合編集部。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

特集
暴走する「受信料ビジネス」  NHKの正体

PART1 受信料制度の行方
地方放送局や取材現場にシワ寄せ
続々と集まるデジタル人材 ネット急拡大のひずみ

23年9月に外部への業務委託が終了
営業経費削減で窮地 契約代行業者の苦悩

政治との「持ちつ持たれつ」で温存される制度
絶対に死守したい受信料収入

[インタビュー]元総務相 武田良太 「政権与党が方針を決めるのは当然だ」
[インタビュー]NHK受信料 私はこう考える
・ジャーナリスト、元NHK記者 相澤冬樹
・京都大学教授(憲法・情報法) 曽我部真裕
・メディアコンサルタント 境 治
・InFact編集長、元NHK記者 立岩陽一郎

PART2 膨張するNHK
財務から見た巨大放送局
金融資産が急膨張 まるで投資ファンド 伊藤 歩

「200億円」の上限撤廃なら勢力激変も
ひしめく動画配信サービス 荒波に挑むNHKの勝算

[インタビュー]立教大学教授 砂川浩慶
「NHKがアーカイブ映像を駆使すれば民業圧迫になる」

制作の決定権者が圧倒的に高齢
NHKの「若者向け番組」が若者に刺さらない皮肉 鎮目博道

PART3 偽りの改革
調査報告書も作成されぬまま2度目の過労死が発生
過労死した31歳記者の教訓は活かされたのか

[インタビュー]佐戸未和記者の両親 「娘を過労死させた真因を、今からでも検証してほしい」
佐戸記者の過労死の真相を追及したジャーナリストはNHKの仕事が激減

稲葉次期会長が口にした「ほころび」の内実
前田会長の「人事改革」に不満噴出

PART4 揺らぐ公共放送の意義
独立は守られているか
安倍政権以降強まる官邸の意向 伊藤 歩

ネット配信で先行する英国は手本になるか
「受信料制度は不公平な税金だ」制度見直しで揺れるBBCの行方 小林恭子

[インタビュー]「公共」の役割とは何か?
・早稲田大学名誉教授 上村達男 「独立性という魂がなければ 受信料を取る資格はなくなる」
・東京大学教授 林 香里 「批判する人に対して冷たいNHK なぜ必要なのか説明してこなかった」

産業リポート
ABG、ブランド新覇者の実像
[インタビュー]
アダストリア社長 木村 治 「フォーエバー再上陸 “絶対条件”は現地化」
ロコンド社長 田中裕輔 「ABGの再生モデルはこの時世に合っている」

深層リポート
IT政策はサイバー攻撃を考慮せよ スマホはサイバー戦の最前線 北村 滋

ニュース最前線
TSMCが追加の工場検討 恩恵受ける地域はどこか
原発運転期間で新ルール 従来の基本計画と食い違い
100円コーヒーも白旗 マック、8割の商品値上げ


連載
経済を見る眼|「異次元の少子化対策」に求められること藤森克彦
ニュースの核心|コロナより心配な中国民営企業の窒息|西村豪太
発見! 成長企業|サーバーワークス
会社四季報 注目決算|今週の4社
トップに直撃|NTTデータインク 社長 西畑一宏
フォーカス政治|独立性問われる日銀とNHK|軽部謙介
中国動態|需要刺激策を地方債に頼る中国|梶谷 懐
財新 Opinion&News|中国は国際ルールを順守し、対外開放を進めよ
グローバル・アイ|金利上昇で近づく金融危機、最もヤバいのは日本|ケネス・ロゴフ
Inside USA|「米下院議長選」大混乱に見る共和党の思想闘争会田弘継
FROM The New York Times|中間層の賃金押し下げ要因に やり玉に挙がる競業避止義務
マネー潮流|2023年のクレジット市場をどうみるべきか中空麻奈
少数異見|戦争を招いたEUエネルギー政策の「油断」
知の技法 出世の作法|斎藤幸平氏による新たな『資本論』解釈①|佐藤 優
経済学者が読み解く 現代社会のリアル|社会活動を過小評価? 日本社会の価値観を分析|向山敏彦
話題の本|『働く母親と階層化』著者 額賀美紗子氏、藤田結子氏に聞く ほか
シンクタンク 厳選リポート|
PICK UP 東洋経済ONLINE|
ゴルフざんまい|さまざまなドラマがあった2022年|小林浩美
編集部から|
次号予告|

訂正情報

「週刊東洋経済2023年1月28日号」(1月23日発売)の広告企画ビジネスアスペクトに、以下の間違いがありました。訂正してお詫び致します。
 
5ページ リード文(導入文)
【誤】オイシックス・ラ・大地執行役員
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【正】オイシックス・ラ・大地専門役員
6ページ 1段目
【誤】機能的価値
   ↓
【正】商品・サービスの機能的価値

2段目
【誤】店頭のPOPやたまたま目にしてもらった街頭広告などでしか
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【正】店頭のPOPや街頭広告、たまたま目にしたテレビCMなどでしか

2段目
【誤】企業には、顧客は不信感を抱いてしまう
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【正】企業のことを顧客は忘れてしまう
7ページ 1段目
【誤】私たちが解決したいのは、ユーザーが日々直面している忙しさ。例えば小さな子どもがいれば、働きながら1日2~3食用意しなければなりません。そこで「子どもが泣く前に、チーズをあげよう」と書いてチーズを同封するなど、体験価値を感じてもらえる工夫を続けています。
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【正】KitOisixを通して私たちが解決したいこと、提供したいことはたくさんありますが、1つは、「献立を考える」という苦労からの解放です。例えば小さな子どもがいれば、働きながら1日2~3食用意しなければなりません。そこに弊社品質基準をクリアした食材が使い切れる量だけ入っており、主菜と副菜が20分で作れるという機能的価値の提供を通して、「子どもを持つ親」の時間を生み出し、食卓に家族のコミュニケーションももたらす。このようにミールキットの機能的価値だけでなく、それ以上にKitOisixの体験価値を届ける工夫を続けています。

写真説明
【誤】オイシックス・ラ・大地執行役員
   ↓
【正】オイシックス・ラ・大地専門役員