週刊東洋経済

情報量と分析力で定評のある総合経済誌

担当記者より
2023年6月10日号
2023年6月5日 発売
定価 780円(税込)
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【第1特集】消えゆく寺・墓・葬儀 宗教 消滅危機

檀家が減り、家族観も変わり、弔い方も変容――。少子高齢化で伝統宗教はかつてない危機に瀕しています。多くの人にとって寺院の住職と会話する機会の大半は葬儀・法要ですが、コロナ禍で小規模の家族葬が定着し、通夜を省略する「一日葬」まで台頭。僧侶を呼ばない人すら増えています。高齢化による組織の衰退は新宗教も同様です。本特集では建立ラッシュの納骨堂のリスク、神社本庁の内紛など伝統宗教の機能不全の実態に迫りました。創価学会、統一教会、エホバの証人など気になる新宗教の今もリポートしています。
 

【第2特集】人手不足時代の迷走曲 今なぜ「年収の壁」


人手不足と賃上げが浮き彫りにする制度のひずみ。場当たり的な対処では新たなひずみも生まれかねない。問題の根っこをたどる。

担当記者より

特集「宗教 消滅危機」を担当した野中大樹です。今年1月、仏教界である事件が耳目を引きました。和歌山県内の2つの寺院がお布施1.5億円分を法人収入として計上せず、課税逃れしていたというのです。新聞は「お布施1.5億円『隠し給与』」と大きく報じました。国会で旧統一教会の救済法が成立した直後でもあり、「ここにも宗教法人の問題があるぞ」と主張しているような書きぶりでした。

2つのうち1つの寺院が取材に応じてくれるというので、和歌山に行ってみることにしました。南紀白浜空港でレンタカーを借り、カーナビに住所を入力したところで、仰天します。到着までに要する時間は2時間半、場所は地図にも載っていないような山奥だったからです。

山を越え谷を越え、陽が傾き始めた頃にたどり着いたのは、ひっそりとした集落でした。
住職は「私の会計のやり方が間違っていました」と詫びつつ、地域の実情を語り始めました。

「この辺は少子高齢化、人口流出、過疎化が全国にさきがけて進みました。私が先代から寺を引き継いだ40年前には、すでに5つもの近隣の寺を兼務している状態でした。そこから兼務寺は2つ増え、今は7つの寺を兼務しています。私は酒を飲まないしギャンブルもしない。お金を貯めていたのは、私よりもっと苦労するであろう次の住職が難局に立ち向かえるようにするためです。」

住職によれば、1つの寺の会計だけでは寺を維持できないため兼務寺の収入をまとめてプールしていたそうです。そこを税務当局に突かれたのです。過疎地では兼務寺が珍しくなくなりましたが、7つも兼務しているケースはまれです。住職は檀家たちと寺の存続に向けて奔走したり、高齢者の送迎をしたりと、地域のために汗をかく人でした。その裏には、地元の人に残ってもらわないと寺が存続できないという苦しい事情があります。宗教法人会計のずさんさが叫ばれた「隠し給与1.5億円」騒動は、少子高齢化、過疎化、人口減少いう宗教法人が直面している根本問題を浮き彫りにしていたのです。

消滅危機に瀕しているのは新宗教も同じです。解散命令請求をめぐって文化庁から何度も質問書を送られている旧統一教会。統一地方選でまさかの落選劇を見せた公明党・創価学会。トップが急死した幸福の科学など、往年に比べて組織力が低下している団体の「今」を取り上げました。エホバの証人については、輸血禁止やムチによる体罰といった「わかりやすい虐待」ではなく、時間をかけて子どもの心身をむしばみ、自分の意思を曲げたり隠したりしながら生きていかざるをえない2世たちの話を聞いています。

伝統宗教から新宗教まで盛りだくさんの特集です。ぜひお読みください。

担当記者:野中 大樹(のなか だいき)
東洋経済記者。熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年、東洋経済新報社に入社。現在は統合編集部。

>>週刊東洋経済編集部の制作にかける思い

目次

第1特集
消えゆく寺・墓・葬儀
宗教 消滅危機


[ プロローグ ] 人口流出による地域崩壊で7寺を兼務
「隠し給与1.5億円」で摘発された地方寺の悲哀
[ 図解 ] 衰退する宗教 データ編

Part1 機能不全の伝統宗教
「遺骨」と「墓」の奪い合い
檀家制度の崩壊で始まった 仏教界の仁義なき戦い 上田二郎

多死社会と墓じまいで建立ラッシュ
納骨堂のリスクにご用心 経営破綻で遺族は大混乱 鵜飼秀徳

家族葬・直葬が増え、沈む葬儀業界
コロナで加速した「低価格スパイラル」

低採算でもやめられない
ネット葬儀の価格破壊 「下請け」の台所事情

葬儀簡素化で護持が困難な寺院も
社会に開かれてこその寺 人々の不安に向き合え 鵜飼秀徳

[ 神社本庁 ] 横領したのは神政連・打田会長の親戚
約3000万円横領事件が神社界「内紛」に与える影響

「神政連の見解ではない」とした過去の回答と矛盾
LGBTQは「精神疾患」 神政連の「内部文書」

Part2 新宗教の衰退
[ 創価学会 ]「仏法の話より次の選挙」「勝ち組」宗教法人の息切れ
統一地方選「敗北」で露呈した組織の弱体化 小川寛大

創価学会2世対談
元創価学会本部職員 正木伸城 × 漫画家 菊池真理子

[ 統一教会 ] 解散命令請求に立ちはだかる「組織性」の立証 教団を詰めきれない文化庁
山上の伯父 手記「徹也よ、天命に従え」 山上東一郎

[ エホバの証人 ] 見えざる心の被害 信仰から逃げられない子ども
[ インタビュー ] 「”自分の責任ではない”と思ってほしい」 宗教2世支援団体代表 夏野なな

 [ 幸福の科学 ] 急死から3カ月だが「大川総裁」のまま
後継決まらずフリーズ状態 藤倉善郎

[ 宗教界の風雲児インタビュー ] 浄土真宗本願寺派 龍谷山本願寺 安永雄彦(雄玄)
「漂流する個人の寄る辺になりうる力が宗教にはある」

第2特集
人手不足時代の迷走曲 今なぜ「年収の壁」
いったい何が「壁」なのか?
3号年金 何が問題か

[ インタビュー ] 慶応大学 教授 権丈善一
『3号のままが得』との誤解 解くための“厚生年金ハーフ”

スペシャルインタビュー
駐日米国大使 ラーム・エマニュエル
「半導体でライバルの中国に助勢はしない」


ニュース最前線
再エネ3000億円買収 JERAの照準は洋上風力
セブン&アイ井阪体制が続投 問われるスーパー再建の手腕


連載
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|ニュースの核心|著名な女性の社外取を批判する前にすべきこと|山田雄大
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|フォーカス政治|サミット成功も次期衆院選は今秋か|歳川隆雄
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|財新 Opinion & News|深刻な若年層失業問題、政府は体制改革進めよ
|グローバル・アイ|AIには金融と同じグローバルな規制が必要だ|セドリック・オー
|Inside USA|緊急事態解除で米政府に突きつけられる課題|安井明彦
|FROM The New York Times|緊迫する米国の債務上限問題 米国債が「格下げ」される日
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